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Please say no:キサラギと僕2
***
頬が何かによって、チクチクしている感じ……。そのチクチクを追い払うべく右手を使おうとしたら、誰かによって握られているみたいに拘束されているせいで、ぴくりとも動かすことが出来なかった。
重たい瞼をやっと開け、握りしめているであろう人物を確認しようと、横を向いてみたら――直ぐ傍でキサラギが幸せそうな顔をして、ベッドに突っ伏したまま、眠りこけているではないか!
頬のチクチクは、真っ黒いキサラギの髪が原因だった。
遮光カーテンの隙間から朝日が照らし出し、まるで僕らを祝福するかのように、きらきらと照らし出す。
昨夜、月を見てる最中にキサラギが現れたから、少しだけ開けっ放しになってしまったらしい。
「おい、キサラギ、起きろ!!」
僕の声にびくっと体を震わせ、頭を上げながら、寝ぼけ眼 を擦る。
「おはようございます、エドワード様」
「どうして、自分の部屋に戻らなかったんだ? このような眠り方をしたら、お前の疲れが取れないであろう?」
上半身を起こしてキサラギの顔を睨んでみせると、眉間にシワを寄せて困惑した表情を浮かべた。
「……エドワード様をベッドにお連れした際、私の服からお手を離してくださらなかったものですから、しばらくそのままでおりました」
「なっ……!?」
何やってるんだ、僕は!? 無意識にキサラギのことを、束縛していたとは――ってあれ?
「では起きたとき、その手をお前が握りしめていたのはなぜだ?」
疑問を口にしながら腕組みをして、キサラギのことを更に睨んでみた。
「そっそれは……エドワード様のお顔がどこか寂しそうにお見受けしましたので、安心させるべくお手を握りしめました。出すぎた真似をいたしまして、申し訳ありませんっ!!!」
慌てて正座をし、床に頭を擦りつけて謝る。
(まったく、コイツときたら――)
「頭を上げよ。お前のお陰で、いい夢を見た気がする。感謝するぞ」
「エドワード様?」
「モーニングティーを淹れたら、3時のティータイムまで、お前は部屋で休んでいろ。命令だ、キサラギ!」
「自分の体のことなら、ご心配していただかなくても、大丈夫でございます。いつも通り仕事をさせては、いただけませんでしょうか?」
追いすがるキサラギの言葉に、大きなため息をついてしまった。強情なヤツだな、もう!
「あくびをかみ殺しながら、眠そうな顔でうろちょろされると執務に差し支えるから、命令しているんだ。そこのところ執事として、察してほしいぞ!! いい加減にしてくれ……」
声を荒げてから、しまったと思った。キサラギが今にも、泣きだしそうな顔をしている――
体の心配をしているから休んでほしいのに、言うことを聞いてくれないキサラギに、ついイラついてしまって、心にもないことを口走ってしまった。
頭が真っ白になり、激しい後悔に見る間に襲われ……気がついたら僕は――正座をしているキサラギを、自分の胸の中に抱きしめていた。
「そのような顔をしてくれるな。えっと、あの……イジワルをしているつもりなど、全然なくてだな、その――」
慰め方を知らないので、どうしたらいいか分からず、言葉が上手く出てこない。無意味にキサラギの頭を、わしゃわしゃと撫でまくった。すると――
頭を撫でていた手を掴み上げながら突然立ち上がると、そのまま後ろにあるベッドに体を押し倒される。一瞬の出来事で声を上げられずに、キサラギの顔を見上げると、熱のこもった瞳でじっと見つめ返された。
(何が一体どうして、こんなことになってしまったのだ?)
掴まれたままの手首は痛いほど、ぎゅうっと握りしめられているのに、文句を言うことが出来ないのは、先ほどとは別人の表情 をしている、大人のキサラギが怖かったから。
「マイ プリンス……。どうして私のようなものに、優しくなさるのでしょう? 貴方様のその優しさは、罪でございますよ」
「つ、み――?」
「大人は頭を撫でられたくらいじゃ、慰められません。こうするのでございます」
空いたもう一方の手で僕の顎をそっと掴み、少しだけ上に向かせながら唇を開かせる。
何をされるか察した僕は声を上げようとしたけど、一瞬早くキサラギの唇が、言葉ごと奪ってしまった。
何なのだ、コレは――!?
事態が飲み込めず目を見開いたまま、アップのキサラギの顔を、見ることしか出来ずにいる状態。しかも初めての行為に対して、大いに戸惑ってしまった。
キスってこのまま、息をしてもいいものだろうか? 止めたままでいたら、窒息してしまうよな。もしかして相手から、空気が送られてくるとか!?
目を白黒しながらされるがままでいる僕に、キスをしながら舌を使って唇をなぞり、角度を変えるキサラギ。そのくすぐったさに体をびくっと震わせたら、やがて口内に舌が入ってきて、僕の舌を捕まえようと絡ませてきた。
「んんっ…っ、や……」
喘ぎながらやっと言葉にすると、呆気なく解放される唇。新鮮な空気を吸うべく、肩を上下しながら息をしたら、僕の濡れた唇を右手親指でそっと撫でる。
「…あぁ、ん…っ」
その指先でさえも、今の自分には刺激となってしまい、ビックリするような甘い声が出てしまった。
「そのようなお顔をして、声を上げないでいただきたい。これ以上のことを、押し進めてしまいますよ」
艶っぽく笑いながら、視線を下の方に移す。
何だろう?
素直にそう思って、同じところに視線を持っていくと、そこは――
「…っ//// みっ、み…見るな!!!」
慌てて下半身を布団で覆い隠しても、既に遅いのだが……
「いえ、失礼いたしました。朝ですので、仕方ございません」
口元に意味深な笑みを浮かべ、自分の身なりを整えてから一礼をしたキサラギ。
「先に食堂の方で、お待ちいたしております。本日は言いつけ通り、過ごさせていただきます。ありがとうございました」
顔を上げたときはいつものキサラギに戻っていて、何事もなかったように颯爽と出て行ってしまった。
――さっきまでの出来事は、一体何だったんだ?――
早鐘のように鳴りまくる胸を、ぎゅっと押さえながら考えても、答えが出るハズもなく。キスをされた唇と赤らんでいる頬が、異常に熱く感じたのだった。
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