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Please say no:揺れる気持ちと戸惑う距離感2
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「今朝のモーニングティーは、スペアミントティーをご用意いたしました」
朝刊を読んでいる僕の傍に、そっとティーカップを置くキサラギ。横目でその顔色を窺うと、いつも通りだった。
「いつものローズティーは切らしたのか?」
僕の視線を受けて、そっと睫を伏せる。
「切らしてはいないのですが――最近のお忙しいご公務やストレスとの兼ね合いを考慮し、チョイスさせていただきました」
手にしていた朝刊をテーブルに置き、ソーサーごとティーカップを持って、その香りを堪能しつつお茶を口にしてみた。
お茶の表面には一葉、ミントの葉がゆらゆらと揺らめき、爽やかさを強調していて。この小さい心遣いがキサラギらしいなと思うと、口元がつい緩んでしまう。
「見た目も味も、申し分ない。朝からサッパリさせてもらった、さすがだな」
「ありがとうございます。今回はほのかに甘いスペアミントをご用意しましたが、清涼感のある爽やかな香りが特徴の、ペパーミントティーもご用意出来ますので、遠慮せずにお申し付けください」
「そうか。では明日の朝、それを用意してくれ」
表情はいつも通りにしていたのに、口調が思ったよりもぬるい声色で告げたので、嬉しさがにじみ出てしまったかもしれない。
しまったと思った僕を一瞬見てから、黒真珠のような瞳を細め、かしこまりましたと言いながら一礼し、去って行くキサラギ。
手にしているティーカップの中のミントの葉のみたく、ゆらゆらと揺れる自分の気持ちとは裏腹に、キサラギのヤツは、今朝のことがなかったようにいつも通りで――
「……僕だけドギマギしてるのって、何だか悔しい!」
これが大人のキサラギと子どもである自分の差のように感じて、ものすごく悔しくなってしまった。
「冷静沈着でなければ、王子として勤まらないというのに。鍛錬せねばならんな」
ひとつため息をついてから、お茶を口にする。
いつもなら心休まる時間なのに、今朝に限っては、安定することが出来ずにいた。キサラギの態度がいつも通り過ぎて、何故だがイラついてしまったから――
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