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「あ、兄ちゃん!ただいまー!」 20分くらい経った頃に、厳つい顔の男の人…名前は神田だったか…とやって来た千尋は、満面の笑みで入って来た。 この場に似つかわしくない千尋の様子に、思わずぽかんとしてしまった。 「…え、千尋、何ともないの?」 「あー、神田さんのこと?見た目は怖いけど、俺のこと助けてくれたんだよ」 …助けた? 話が見えず首を傾げたら、千尋が続きを話した。 「同じクラスの田村いるでしょ?よく俺を虐めてくる奴。今日も帰りに捕まっちゃったんだけど、神田さんが追い払ってくれてさ!本当にカッコよかった!」 「…キャーキャー煩ぇな。おいオニイチャン、こいつ黙らせらんねぇの?」 「…え?いや、あのー…なんか弟がすみません」 さすが千尋というべきか…。確かに少し天然っぽいところはある子だけど、こんな状況でもビビってないのは予想外だ。対応力が凄まじいというか、何というか。 というか母さんのことは聞いてるのか? 「千尋、神田さんから事情は聞いてる?」 「あ、うん。お母さん逃げちゃったんでしょ?きっとあの髭ヅラの男とだね。あの男とじゃ幸せになんてなれそうにないのに」 えぇー…こいつ心臓に剛毛が生えてるのか? これっぽっちも動揺してないってどういう事? さっきまでとは違った意味で口が利けなくなっていたら、高乃さんが俺たちの方に寄ってきた。 「千尋くん、初めまして。みんな揃ったしちょっとだけ話してもいいかな?」 「は、はい」 「椛くんにはもう話したけど、あの家にはもう帰せないから俺たちの家に来てもらうことになるんだ。椛くんは俺ん家、千尋くんが神田ん家」 高乃さんの発言に慌てて『待った』をかけた。 「ちょ、ちょっと待ってください!家に帰れないのは…まぁまだ納得出来たけど、俺たち別々にされちゃうんですか!?せめて一緒にっ」 「うーん…悪いんだけど、俺たちどっちも2人住まわせられるほど広い家じゃないんだよね。だから無理」 「そんなっ」 「別に今生の別れって訳じゃねーんだからぐちぐち文句言うな。俺だってクソガキ家に置かなきゃいけねぇなんて本当は死ぬほど嫌なんだ。殴るぞ」 神田さんに睨まれ、それ以上は言えなかった。 「椛くん、分かってくれた?」 「…まぁ、…はい。千尋、後で電話しよう。これからの事話したい」 「うん」 それから、高乃さんが新しく淹れたココアを千尋に持たせると4人揃って事務所を出た。

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