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また車に乗せられ、少し走らせるとすぐに高乃さんの家に着いた。 マンションの5階の一室で、広い家じゃないって言ってたけど俺からすれば十分な広さがあると思った。ヤクザはお金に困らないのか、家具は綺麗で大きいし、照明だって高そうなやつだ。ただ、それが生活感の無さを強調していた。 部屋数が3つもあるくらいだから、家賃もそれなりにするだろう。そんな立派な家の奥の部屋を案内された。ベッドだけが置かれていて、やっぱりここもシンプルだった。 「来客用の部屋なんだけど、ここ好きに使っていいからね。俺これから夕飯にするけど、椛くん何か食べる?」 「…いや、大丈夫です」 「そう。お腹空いたら冷蔵庫でも漁って。お風呂も適当にどうぞ。じゃあお休み」 高乃さんが部屋から出ていくと、どっと疲れを感じてその場に座り込んでしまった。 一息つくと、唯一持って来た学生カバンから携帯を引っ張り出して千尋に電話をかけた。 『もしもし!兄ちゃん?』 「うん。もう着いた?」 『着いたよ。ねぇ聞いて!神田さん家すっごい綺麗なの!』 「…そう」 『しかも久しぶりにハンバーグ食べさせてくれた!』 「へぇ」 相変わらず能天気な千尋に何だか苛立ってきた。 俺だけがこんなに焦ってて馬鹿みたいだ。 「ねぇ千尋、状況わかってる?親いなくて、家帰れなくて、一文無しなんだよ?高校だって辞めなきゃいけないかもしれない。これから怖い目にあうかもしれないんだ。何でそんなに元気なのか分からない」 少しの沈黙の後に、千尋が言った。 『あの家とあの親より、神田さん家の方が生活は保障されてるよ。面倒見てくれるなんてラッキーじゃん。学校だけは悔いが残るけど、そういう人生なら仕方ないと思う。あの人のところに生まれてきたのは運が悪かったよね』 「そう…なのかもしれないけど」 千尋の言葉にちょっと驚いた。千尋なりに現実を見てるのだ。 『兄ちゃんも今までバイトばっかりでろくに遊んだりしてないでしょ。転機だと思ってさ、これからの事考えようよ』 情けないがそれに『うん』としか答えられず、結局俺は何の見通しも立たないまま電話を切った。 (…疲れた) ベッドに倒れ込むように入れば、待ってましたとばかりに睡魔が襲って来た。 目が覚めたとき、あのカビ臭い家の、日当たりの悪い自分の部屋だったら良いのにと僅かな期待を込めて目を閉じた。

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