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第2話

 靴を履き替えて、生徒玄関を出た。校門に立っている先生に挨拶をして駅に向かう。 「同じ学年なのに、初めて話したよね」  会話が見つからず、適当に言った。 「クラス、微妙に離れてるから。一組と四組」 「よく俺のクラスまで知ってんね」  うちの学年は八組まである。四組だと、体育で同じになることもない。 「同じ部活のやつが、そっちのクラスにいる」 「そうなんだ」  吹き込んでくる雨で腕が濡れ、肌寒い。季節が逆戻りしたみたいだ。 「部活って、何部?」 「サッカー部」    言われてから、水澤くんが学校名の入ったショルダーバックを肩にかけていることに気付いた。大介が持っているものと同じだ。 「サッカー部? って、ことは」 「大介と一緒。ほんと俺って認識されてないのな。春休み前までは、並木くん、よくグラウンド見にきてたのに」 「ごめん」 「謝られると逆に切ないからやめて」  俺ってそんなに印象薄いのかなぁなんて言いながら、水澤くんは唇を尖らせた。  駅に向かうにつれ、自然と足取りが重くなる。  大介と彼女が一緒にいるところを見るのは正直気が重い。部員目当てのミーハーなマネージャーならいっそ妬むこともできたかもしれない。  だけど、大介と付き合ったマネージャーは本当にサッカーが好きで、部活中は誰よりも声をあげ、休むことなく部員の後ろに回ってボールを拾い続けている。サッカー馬鹿だった大介が惹かれても仕方ないと思えた。土俵が違いすぎて妬む気すらおきない。  水澤くんは雨に濡れている俺の腕をつかんだ。 「俺さ、ちょっと寄りたいとこあるんだよね。付き合って」 「寄りたいところ?」  答えも聞かずに連行される。地元の人じゃなきゃ知らないような路地を通ると、アーケードが続く商店街の途中にでた。遠くに駅が見える。 「来たかった場所は、ここ」  水澤くんが足を止めたのは、一軒の店の前だった。 『山里ベーカリー』  その名前には見覚えがあった。昼休みになると生徒玄関前でパンの販売をしてる店だ。 「お店、ここにあったんだ。地元のパン屋だろうなぁと思ってたけど、初めて知った」 「けっこう穴場なんだよ。職員会議で部活がない日、たまに来んの。人気があるパンは三年がさらってっちゃうから、学校じゃ食えないんだよな」 「俺、いつもシュガートーストしか買えない」 「ああ、食パンに砂糖がかかったやつ。あれはあれでうまいけど、いつもそればっかじゃ飽きるよな」  うちの学校は一年の教室が四階で、学年が上がるごとに教室の階が下がっていく。  同じ時間に授業が終わると、三年生が一番最初にパンにありつけるのだ。残ってるのは、いつも同じ種類のパン。シュガートーストか、シュガートーストか、たまにぶどうパン。

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