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第4話

「はい、おーい緑茶」  焼きたてで、まだ温もりのあるホットたまごカツサンドパン。もう略してほったまごパンでいいや。そのパンとおーい緑茶を交換した。  水澤くんはお茶を一口飲み、ソーセージパンにかじりつく。  俺もほったまごパンにかじりついた。こんがり焼かれてサクッとした食パンの中に、マヨネーズたっぷりの玉子と、大きなカツが入っている。 「んまっ」  今度は肺だけじゃなく、口の中まで幸せで満たされた。  水澤くんは俺の手元を覗き込んで言う。 「まだカツまでたどりついてないよね?」 「へへっ、バレてる」  買ってもらった手前、変な気を回してしまった。  もう一口食べ、カツまでたどりつく。甘いタレで口の中がさらに幸せで満たされる。 「んまっ。今度こそ、本当にうまい」 「並木くん、幸せそうに食べるねぇ。見てて気持ちがいい」  そう言うと水澤くんはソーセージパンの残りを口にした。  そういえば、水澤くんは俺が大介を好きなことを知ってるのだろうか。玄関で言われた、含みをもった『優しいね』の言葉を思い出す。部活を見に行ってたのだって、大介が目当てだったと気付かれているのかもしれない。  途端に、ほったまごパンの味がしなくなった。口の中でもさもさ動くだけの物体になる。  水澤くんは急に食べるペースが遅くなった俺を横目で見ると、柔らかい声で言った。 「別に、言いふらしたりしないから、安心して。そんなことしても、俺に得することないし」 「何のこと?」  他のことを言ってるとしたら墓穴を掘りたくない。わざと知らないふりをして問いかけた。  水澤くんは紙袋から、芳ばしい匂いのするカレーパンを取り出した。 「ちゃんと言葉にしたほうがいい?」 「いや、いい」 「言いふらしてやろうとか、邪まな考え持ってたら、お気に入りの場所に連れてきたりしないでしょ」  そして、美味しそうにカレーパンにかじりつく。 「そっか。それもそうだよね。大事な場所なのに、連れてきてくれてありがとう」  少なくとも水澤くんは俺を陥れようとか、悪いことは考えてないみたいだった。  ほったまごパンの残りを頬張り、じっくり味わう。なぜか無言でいるのが、さっきよりも辛くない。少なくとも水澤くんが敵じゃないとわかったからかもしれない。  雨がだんだん小降りになってきた。重い雲におおわれていた空から薄く光が差している。  ホットレモンを口に含むと、口の中いっぱいに妙な味が広がった。 「うっ、惣菜パンにホットレモンって合わないね」  今まではシンプルなシュガートーストだったから気にならなかったのだろう。豪勢なほったまごパンを食べたあとにホットレモンを飲むと、口の中で色々な味が混ざり合って大渋滞を起こしていた。  水澤くんはぷっと笑って、お茶を差し出してくる。

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