4 / 5
第4話
「はい、おーい緑茶」
焼きたてで、まだ温もりのあるホットたまごカツサンドパン。もう略してほったまごパンでいいや。そのパンとおーい緑茶を交換した。
水澤くんはお茶を一口飲み、ソーセージパンにかじりつく。
俺もほったまごパンにかじりついた。こんがり焼かれてサクッとした食パンの中に、マヨネーズたっぷりの玉子と、大きなカツが入っている。
「んまっ」
今度は肺だけじゃなく、口の中まで幸せで満たされた。
水澤くんは俺の手元を覗き込んで言う。
「まだカツまでたどりついてないよね?」
「へへっ、バレてる」
買ってもらった手前、変な気を回してしまった。
もう一口食べ、カツまでたどりつく。甘いタレで口の中がさらに幸せで満たされる。
「んまっ。今度こそ、本当にうまい」
「並木くん、幸せそうに食べるねぇ。見てて気持ちがいい」
そう言うと水澤くんはソーセージパンの残りを口にした。
そういえば、水澤くんは俺が大介を好きなことを知ってるのだろうか。玄関で言われた、含みをもった『優しいね』の言葉を思い出す。部活を見に行ってたのだって、大介が目当てだったと気付かれているのかもしれない。
途端に、ほったまごパンの味がしなくなった。口の中でもさもさ動くだけの物体になる。
水澤くんは急に食べるペースが遅くなった俺を横目で見ると、柔らかい声で言った。
「別に、言いふらしたりしないから、安心して。そんなことしても、俺に得することないし」
「何のこと?」
他のことを言ってるとしたら墓穴を掘りたくない。わざと知らないふりをして問いかけた。
水澤くんは紙袋から、芳ばしい匂いのするカレーパンを取り出した。
「ちゃんと言葉にしたほうがいい?」
「いや、いい」
「言いふらしてやろうとか、邪まな考え持ってたら、お気に入りの場所に連れてきたりしないでしょ」
そして、美味しそうにカレーパンにかじりつく。
「そっか。それもそうだよね。大事な場所なのに、連れてきてくれてありがとう」
少なくとも水澤くんは俺を陥れようとか、悪いことは考えてないみたいだった。
ほったまごパンの残りを頬張り、じっくり味わう。なぜか無言でいるのが、さっきよりも辛くない。少なくとも水澤くんが敵じゃないとわかったからかもしれない。
雨がだんだん小降りになってきた。重い雲におおわれていた空から薄く光が差している。
ホットレモンを口に含むと、口の中いっぱいに妙な味が広がった。
「うっ、惣菜パンにホットレモンって合わないね」
今まではシンプルなシュガートーストだったから気にならなかったのだろう。豪勢なほったまごパンを食べたあとにホットレモンを飲むと、口の中で色々な味が混ざり合って大渋滞を起こしていた。
水澤くんはぷっと笑って、お茶を差し出してくる。
ともだちにシェアしよう!