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第5話

笹塚家の部屋は至って普通のシンプルな部屋だった。 同じ団地内なので部屋の作りは全く一緒なのだが、家具や配置で随分と印象が変わるものだなと改めて実感する。 廣瀬家は夫である京一がインテリアデザイナーという職業のため、彼のこだわりの家具と配置で完璧な状態にしてある。 彼はこだわりが強く、家具の配置が少しでもズレるとすぐに気づいてしまうくらいだ。 普通なら神経質、ストイックそうだと嫌がる人もいるだろうが純は夫のそういうところに惚れたと言っても過言ではない。 堕落しきっていた純の人生を180度変えてくれた男。 純を変えてくれたのは紛れもなく京一なのだ。 リビングに通された純はソファーに腰をおろすとそっと辺りに目を配らせた。 出かける所は確認したが、念のため秋乃がいない事を確かめておきたかった。 「あの、奥さんは…お出かけですか?」 コーヒーの入ったカップをトレイに乗せて戻ってきた士郎に何気ないフリを装って訊ねる。 すると、ソーサーに手をかけていた士郎の手元が止まった。 「あぁ、そうなんです。友達と旅行とかで…」 「そうなんですか…奥さんが留守の時にお邪魔してしまってすみません」 しおらしく睫毛を伏せてみせると、士郎がにこりと微笑んだ。 「困った時はお互い様ですから」 とびきりの笑顔に思わず頬が熱くなり、それを隠すように差し出されたコーヒーカップを受け取ると、すぐに口に運ぶ。 するとソファがギシリと軋み、士郎が隣に腰掛けてきた。 「ところで、最近俺の近辺を嗅ぎまわっていたみたいですが…理由を教えていただけませんか?」 「………えっ?」 突然の士郎の単刀直入な発言に純は思わず素の表情に戻ってしまう。 瞠目したまま士郎を見つめると、男はまだ笑顔のままだった。 聞き間違えたのか? 一瞬そう思っだが、よく見ると士郎の目は全く笑っていない。 緩やかにカーブを描いたアーモンドの形をした瞳の奥には、さきほどまであった折り目正しい誠実な色はなく、得体の知れない不気味な光を放っていた。 この男…端から知っていたのか!! ハッとして反射的に立ち上がろうとしたところを、士郎の腕に阻まれる。 「離せ…っ!」 振り解こうと抵抗する純の左腕に、士郎の指がぎりぎりと食い込んだ。 危険だ。 ここにいては危険だ、この男は危険だと、頭の中にわんわんと警報が鳴り響く。 しかし士郎の放つ、重く威圧的な雰囲気に圧倒されて純の身体は全く動けなくなってしまったのだった。

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