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第6話

「もしかして、バレてないとでも思ってました?」 士郎の唇がゆったりと弧を描く。 爽やかな笑みは、いつのまにか下卑たものに変わっていた。 「わざわざ探偵まで雇って徹底的に調べていただいたみたいで。それに…いつかの朝は隠し撮りまでしてましたね?」 何もかもお見通しだという士郎の表情に純は言葉を詰まらせた。 優しくて誠実で人徳のある医者。 愛妻家で穏和な士郎のイメージがガタガタと音を立てて崩れていく。 しかし、だからといってここで引いてしまうほど中途半端な覚悟で来たわけではない。 幸せな結婚生活をぶち壊した秋乃に…笹塚家に制裁を与えなければ、一生気がすまないのだ。 「…あんたの嫁、浮気してるんですよ」 純はそう言うと、こちらを見下ろす士郎に向かって笑って見せた。 士郎の眉がピクリと上がり、口元からすっと笑みが消える。 「それも、俺の夫と」 純は勝ち誇ったようにニヤつくと、掴まれた腕ごと士郎に近づいた。 「あ。その顔、やっぱり知りませんでした?ですよね〜〜まさかあんな大人しそうな奥さんが、浮気するなんて思ってもみなかったでしょう?でもね、ちゃんと証拠の動画もあるんです。二人がセックスしてる動画。見ます?」 セックスという言葉に士郎の表情が明らかに暗くなる。 やはり士郎は秋乃と京一が浮気をしているなんて思ってもみなかったのだろう。 純だってそうだった。 まさか京一がそんな事をするはずがないと何度も思ったし、できる事なら一生信じたくなかった。 しかし、どんなに目を逸らしても一度知ってしまった事実からは逃がれられない。 動画に映っていた夫の表情が、純に見せた事のない表情だったから。 俯く士郎の姿に自分の惨めな姿が重なって見える。 胸のどこかがツキンと痛んだ。 裏切りと絶望、敗北感。 士郎の落ち込む気持ちは痛いくらいわかる。 しかし、だからといって黙って見過ごす事なんてできなかった。 ようやく手に入れた純の大切な居場所を、また取り上げられてしまったのだから。 「どうしてくれるんです?お宅の奥さんに夫を寝取られて、俺精神的にボロボロなんですけど」 我ながら意地悪だと思いながらも士郎を更に追い詰めるような言葉を投げかける。 「言っておきますけど、金で解決なんてできると思わないでくださいね」 すると、突然士郎の肩が揺れだした。 ショックのあまり泣き出してしまったのかとギョッとしていると、士郎がゆっくりと顔を上げる。 信じられない事に士郎は笑っていた。 瞠目する純の腕に再び男の指先がグイグイ食い込んでいく。 「それが、何か?」 平然とした態度とセリフに、純の頭にカッと血が上った。 「は!?何かって…あんた理解してる?自分の嫁が隣の部屋の旦那と浮気して…っ…ちょっと」 純は思わず身を捩った。 いきなり押し倒されたからだ。 抵抗する間もなく、上から体重をかけられ押さえつけられる。 ヤバイ…ヤバイ! 本能がしきりに訴えかけてくる。 この男は本当に危険だと。 「離せっ!触んな…っ」 腕を振り上げようとすると、引き抜いたネクタイであっという間に一纏めにされてしまった。 逃げ場を失った純を、士郎が満足げに見下ろしてくる。 その瞳は捕食者のようにギラついていた。 「触るな?こういう格好をしてきたという事は奥さんもつもりだったんでしょう?しっかりシャワーまで浴びてきて」 士郎の整った顔が近づき、純の剥き出しになった首すじをスン、と嗅ぐ。 「……っ!!」 「惨めな者同士、慰め合いませんか?奥さん」 士郎の低い声が耳朶を掠める。 柔らかな口調がますます恐怖を掻き立ててきた。

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