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第8話
「あぁ、…いけませんね」
下肢を弄 っていた士郎が落胆した声を上げる。
「こんな色気のない下着じゃ旦那さんに浮気されても仕方ないですよ?」
純の穿いているのはごくごくシンプルなボクサータイプの下着だった。
確かに色気というものはないが、夫の京一にそれを指摘されたことなんてない。
「もっと魅力的な下着をつけなきゃダメですよ、奥さん。愛されたいのなら尚更」
士郎の手が下着ごと引き摺り下ろしてきた。
「…あっ」
純は思わず太ももを擦り合わせる。
先ほど射精してしまったものが、下着と肌の間でいやらしく糸を引く様が見えてしまったからだ。
普段ならなんて事ないはずなのに、なぜか士郎に見られていると思うとたまらない気持ちになってしまう。
何でだよ。
心の中で自身に悪態を吐いていると、士郎が徐に立ち上がり隣の部屋に入っていった。
しかし、すぐに戻って来るとぴったりと閉じていた純の片足をぐいと掴んでくる。
「何す…ん…」
抵抗しようとして足を蹴り上げるが、それも容易く躱された。
このまま何かとんでもない辱めを受けさせられてしまうんじゃないだろうか。
良からぬ妄想が頭を過る。
しかし士郎の行動は純の予想に反したものだった。
純の足に何かを穿かせはじめたのだ。
まさか脱がされた後に何かを穿かされると思ってなかった純は、困惑しながら士郎の手元を見つめた。
筋張った男らしい手が、純の足を恭しく持ち上げ丁寧な手つきで何かを穿かせている。
それはまるでお伽話に出てくる王子様がプリンセスにガラスの靴を穿かせているような所作で。
紳士的な士郎の行動に、純はいつの間にか抵抗することも忘れて胸を高鳴らせてしまっていた。
「あぁ、やっぱりこっちの方が断然似合う」
作業を終えた士郎のうっとりとした声に純はハッとして我に返る。
自分のあられもない下半身を見て、惚けていた脳が一気に覚醒した。
純に穿かされていたのは黒のシースルーの女性物のストッキングだった。
しかし普通のストッキングではない。
ウエスト部分と足にかかる布地は残して、前、後ろ、側面が大きくくり抜かれている。
それはサスペンダーストッキングというものだった。
ガーターベルトとは違い穴が開いているだけなのでベルトを着脱する手間がなくていいのだと、昔少しだけ関係を持ったランジェリーショップの女が言っていたことを思い出す。
しかし、本来ならばそのストッキングの上から下着を穿くものなのだが、純が身につけているのはそのストッキングのみという格好だった。
つまり、真ん中にくるはずの生地がない、全く無防備な状態なのだ。
その浮き彫りにされた純の股間に士郎の視線が突き刺さってくる。
裸より百倍恥ずかしい格好に一気に羞恥が込み上げてきた。
「よく似合ってますよ、奥さん。あなたのような人にはこういう卑猥な格好がぴったりだ」
士郎が満足げな表情で純の姿を舐めるように見つめてくる。
しかしまるで純が淫乱か淫蕩だとでも言いたげなセリフは純のプライドを傷つけた。
「こんな事して…秋乃 に悪いとか思わないのかよ」
純は精一杯の恨みと皮肉を込めると士郎を睨みつけた。
「おや、それをあなたが言うんですか?おかしな人だ」
士郎がくつくつと忍笑いをもらしながら純の太ももを妖しく撫で回してくる。
足の付け根の際どい部分に触れられるたびに、何とも言えない感覚が背筋を這い上がった。
「秋乃が浮気…いや不倫をしていることは知ってたんですよ。おそらくあなたが気づく前からね。あれはすぐ顔にでるから」
秋乃の顔を思い出したのか、士郎の表情がフッと弛む。
その顔はパートナーに裏切られて憎しみに満ちている純と同じ境遇の持ち主とは思えないほど穏やかなものだった。
普通は夫や妻の不倫を知ってしまったら冷静ではいられないはずだ。
こんな風に穏やかに笑えたりしない。
カッとなった純はつい口を荒げた。
「は?じゃあなんで止めようとしないわけ?!自分の嫁が他の男とセックスしてるのに!!あんた頭おかしいんじゃないのか?!」
すると、突然後孔をひきつるような痛みが襲った。
見ると、濡らされてもいないそこに指を無理矢理ねじ込まれている。
「うぅっ…っぐ…っ」
純は痛みに呻くと唇を噛んだ。
しかし、士郎はお構いなしに指の深度を更に深めてくる。
クチュクチュと中を強引に掻き回されて、痛みと異物感しかないのに腰が跳ねた。
「一度やってみたかったんですよ、こういうプレイ。ほら、秋乃にこういう事したら嫌われてしまうかもしれないでしょう?」
やっている事とは裏腹に士郎の口調は至って冷静で。
それがますます純の頭を混乱させ、また、背筋を凍らせた。
この男はやはりイカれている。
普通ではない。
「俺は秋乃を愛している。それはもう、心底ね。だから余計な波風を立てて別れを切り出されでもしたら困るんですよ。あなただってそうじゃないんですか?廣瀬純さん」
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