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離してあげられなくて、ごめんね②

平凡な俺には珍しく、ラブレターらしき手紙をいただいた。 LINEやら、メールやらが当たり前の時代に、下駄箱に手紙だなんて、なんと、時代錯誤な。 手紙には、放課後に図書室に来てほしいという、簡素な内容で、差出人不明。 字はきれいで丁寧な文字で、簡素な内容だっただけに文字の綺麗さが際立っていた。 見た目だけは、ラブレターみたいだけれど、これは、きっと、ラブレターではなく果たし状に近いかもしれない。 もっといえば、これがラブレターだとすれば俺に対してではなく恋人のナギに対してのラブレターかもしれない。 珍しいとはいえ、このタイプの手紙をもらったことは一度や二度ではない。 本当のラブレターをもらったのは、たった一回。 ナギからだけ。 その他は、所謂果たし状だったわけで、無視したところで翌日顔を見せに来てくれるわけだから相手の行動力に感謝しつつ、ありがたくも無視させてもらっているわけだ。 しかし、こんな丁寧に書かれた果たし状を無視してもいいものだろうか。 どうしたものかと思案していると、以前俺に「果たし状」を送った、元ナギの浮気相手のジローが手紙を覗き込んできた。 「村上何読んでるの?…うわ、今時手紙?」 「そういう、ジローだって前くれたじゃない。手紙。」 「黒歴史をぶり返さないで。あと、ジローもやめて。」 ジローこと雪村次郎。 可愛いという言葉は彼の為にあるんじゃないかと思うくらい可愛い少年。 ただし黙っていれば。と枕詞がついてしまうくらい、強気な性格だ。 次郎って名前が好きじゃないらしく、雪村かユキって呼んでくれと言われた。 どうしてか聞いたら、「だって僕に似合わないじゃないか。」だと。 そんなものかね、と思いつつ、やはり彼はジローなので呼び名は変えていない。 それに、俺はジローって名前好きなんだけれどな。 彼はかつてナギの浮気相手で、彼からも手紙をもらって例のごとく無視したら、翌日、怒り心頭で教室に殴り込みに来たことがあった。 それから、何回か同じような応酬があり、いつの間にかジローは当たり前のように教室に入ってくるようになったし、はじめは遠巻きにみていたクラスメートもジローを当然のように受け入れ始めた。 いつのまにか、ナギの話はしなくなって、なんでもない話をすることが多くなった。 ナギにもジローにも確認してないけれど、風の噂でナギとジローは別れたという話も聞いた。 「放課後に図書室って、また古風な。」 いつの間にか手紙を奪ったジローは、さっそく内容を確認している。 「ジローは体育館裏だったもんね。」 「だから、僕の話はいいって。てか、覚えてるんなら来てよ。僕、あの日最終下校時間まで待ってたんだから。」 「そういうとこ律儀だよね。」 「呼び出してるんだから、当たり前でしょ。って、僕の話はいいって。それで、この呼び出しはいかないんでしょ。」 「うーん、どうしようかな。」 「はー?僕の呼び出しを無視しておいて、この呼び出しにはいくわけ?」 「だって、丁寧な手紙だし。無視するの悪いかなって。」 「どうせ、僕の字は汚いですよ。丁寧じゃないですよ。」 「いやいや、そんなことないって。そういう意味じゃないよ。ジローの字可愛いし、俺好きですよ。」 真っ赤な顔して怒ってるジローにクラスメートは生暖かい目で見守っている。 怒っているのにみんなから微笑まれているジロー。 不本意だ、と怒りながら帰って行った。 隣の席の友人に肩をたたかれ、「お前、そういうとこだよ。」って言われた。 意味がわからない。

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