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離してあげられなくて、ごめんね③
(朝木side)
この学校に、古びた図書室があったことを知ったのは偶然。
適当なサボリ場はないかと、学校を散策していて見つけた場所。
サボリついでに古臭い本を読んでいたら、思いの他面白くて、サボる以外でも利用することが多くなった。
どうやら、この図書室は古いだけでなく、珍しい書物ばかりが集まっているらしい。
そんな図書室を利用するのは、所謂本の虫と呼ばれる学生で、自分でいうのもなんだけれどイケメンと言われ、ことある毎に絡まれる俺にも興味の「き」の字もないらしく、そんなことよりも、自分の所望している本を探すことに夢中だ。
気の合う友人といれば騒ぐけれども、どちらかといえば騒がしいのは好きじゃない。
そんな俺にとっては、この場所自体、心地の良い場所だ。
この図書館に通いつめて、早2週間。
季節的にも良い気候になり、眠い目をこすながら本を読んでいたら、いつの間にか寝てしまっていたみたいだ。
ふと、目を開けると、机から顔を上げると、背中に何かがのっている感覚があった。
確認してみると、学校指定のカーディガン。
俺は着てきていないはずだ。
どうしてだろう、と首をかしげていると、本棚から声が聞こえてきた。
「あ、起きた?」
本棚の奥からでてきたのは、やたら身長の高い男。
古そうで重そうな本を3冊も抱えながら現れた。
「これ…。」
「ちょっと寒くなってきたし、寝てたら冷えそうだったし起こそうと思ったけど…気持ちよさそうに寝てたから起こすのしのびなくて。」
「すみません、ありがとうございました。」
「いいえー。」
朗らかに笑う彼。
彼も、この図書室の常連なのだろうか。
なんとなく、彼がどんな本を借りているのだろうかと気になった。
「…あの、」
「ゆうき、まだここにいたの?」
「あ、ナギ。」
話しかけようとしたら、図書室の外から、声が聞こえた。
現れたのは、綺麗な顔をした男。
この図書室に入るのが嫌なのか、眉間に皺を寄せながら彼に声をかけていた。
一方の彼は、至極嬉しそうな顔をして、男の方に話しかける。
「それじゃあ、風邪ひかないようにね。」
思い出したように、俺にそういって、彼は受付カウンターに借りた本を記入し、男の元へ向かっていった。
呆気にとられて彼らの方へ目を向けると、男は振り返り、俺を睨みつけて踵をかえしていった。
そんな二人に、なんとなく、彼らの関係性が見えた。
「そっか、そうだよな。」
誰もいない図書室で、俺は一人。
誰にいうでもなく、声が漏れた。
いつのまにか、最終下校時刻が迫っていた。
本を借りないと。
借りる本を記入すべく受付カウンターに向かう。
今日、俺と彼の他に図書室を利用した人はいないらしい。
俺の上には、一人だけの名前が記入されている。
2年C組 村上優紀。
綺麗な文字だった。
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