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離してあげられなくて、ごめんね③

彼―村上さんは、この図書室の常連だったようだ。 毎日ではないけれども、結構な頻度でこの図書室に現れる。 今まで意識していなかったからなのか、それとも最近になって通う回数が増えたのか。 真実は定かではないけれども、多分、前者なのだろう。 彼はいつも、後ろから3番目の机の、窓際から3番目の席に座って、30分ほど本を読んで帰る。 俺はいつも、一番後ろの机の、一番窓際に座って、1時間ほど本を読んで帰る。 この図書室の数少ない利用者の席は誰が決めるでもなく決まっていて、読みたい本を選んだら、脇目もふらず、自分の席について読書なり勉強なりをしている。 たまに、自分の席がとられていたら、誰の席でもない場所に座る。 そんな利用の仕方だから、誰も他の人に興味がないし、ただただ本を読み続けるのだろう。 ホームルームが終わるやいなや、図書室に行き、いつものごとく本を読んでいると、今日も彼がやってきた。 いつも、後ろ姿しか見えないけれど、背筋を正して本を読んでいる姿が見て取れる。 決して話かけることも、目が合うこともないのだけれども、名前しか知らない彼の姿に知らず知らずのうちに憧れを感じていたことは、図書室で彼の姿を目で追い始めてから、ほどなく気付いた。 そのたびに、彼と、その恋人に違いない男の顔を思い出し、話しかけることをためらう。 別に、彼とどうこうなりたいわけじゃない。 同じ趣味で、同じ空間で好きなことができるなら、それだけでいい。 … 今日も、友人から声をかけられる前に速効で図書室に向かった。 いつものごとく、読みかけだった本を取り出し、自分の席につくと、違和感。 いつもの3番目の席に彼ではない、違う学生が座っていた。 本を読んでいるのではなく、調べものをしているところを見ると、多分初めて来た学生なのだろう。 たまに、こういうことだってあるし、そもそも、今日彼は来ないかもしれない。 わかっていながらも、若干落ち込んだ。 そんな自分に苦笑しながら、読みかけの本を読み始めた。 本を読んでいると、隣の席に誰かが座ったようだった。 この、隣の席は、いつもは誰も使っていない席だ。 珍しいな、と横目で隣を確認すると、思いがけない人物、―村上さんが隣の席に座っていた。

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