5 / 14
放課後 Ⅲ
昇降口から差し込む光りは全然強くなんかなくて、始業式の頃と変わらないのに、たまに思い出したように吹く風は、嫌がらせみたいに夏の匂いを俺に気付かせる。
春なのか夏なのかハッキリしろよ……。
「翼、今日は家の用事なの?」
靴を履き替えながら、遊人が俺に聞いた。
俺も自分の上履きを仕舞いながら、適当に相槌を打つ。
「んー、まぁそんなとこ」
「じゃー早く帰んないと怒られちゃうじゃん?」
いたずらした子どもみたいに、遊人がちらっと笑った。
こういうときの遊人は、ほんとガキみたいで、俺は弟を持つ兄貴になったみたいだ。
……俺、ひとりっ子なのに。
「うち、けっこうユルイから。へーき。遊人ん家は?」
「あは。うち厳しーの。ガンコ親父だもん」
昇降口から出ると、手をかざして、遊人は空を見上げた。
俺もつられて顔を上げる。
どこまでも青い空には、なんだかよくわかんない形の雲が浮いていて、教科書に載ってるような雲はひとっつもなかった。
「ガンコ親父ねぇ……ちゃぶ台ひっくり返したりすんの?」
あ、あの雲フランスパンみてぇ。
……やばい、腹減った。
どっかから匂ってくる花の匂いですら俺の胃を刺激し始める。なんだっけ、この匂い。
遊人は俺を見るとぱたぱた手を振って、
「違う違う。鉄拳制裁」
「げ。まじ?」
「もーマジもマジ!」
それでなんで遊人みたいなのが育つんだ? すっげえ不思議。
ともだちにシェアしよう!