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放課後 Ⅲ

 昇降口から差し込む光りは全然強くなんかなくて、始業式の頃と変わらないのに、たまに思い出したように吹く風は、嫌がらせみたいに夏の匂いを俺に気付かせる。  春なのか夏なのかハッキリしろよ……。 「翼、今日は家の用事なの?」  靴を履き替えながら、遊人が俺に聞いた。  俺も自分の上履きを仕舞いながら、適当に相槌を打つ。 「んー、まぁそんなとこ」 「じゃー早く帰んないと怒られちゃうじゃん?」  いたずらした子どもみたいに、遊人がちらっと笑った。  こういうときの遊人は、ほんとガキみたいで、俺は弟を持つ兄貴になったみたいだ。  ……俺、ひとりっ子なのに。 「うち、けっこうユルイから。へーき。遊人ん家は?」 「あは。うち厳しーの。ガンコ親父だもん」  昇降口から出ると、手をかざして、遊人は空を見上げた。  俺もつられて顔を上げる。  どこまでも青い空には、なんだかよくわかんない形の雲が浮いていて、教科書に載ってるような雲はひとっつもなかった。 「ガンコ親父ねぇ……ちゃぶ台ひっくり返したりすんの?」  あ、あの雲フランスパンみてぇ。  ……やばい、腹減った。  どっかから匂ってくる花の匂いですら俺の胃を刺激し始める。なんだっけ、この匂い。  遊人は俺を見るとぱたぱた手を振って、 「違う違う。鉄拳制裁」 「げ。まじ?」 「もーマジもマジ!」  それでなんで遊人みたいなのが育つんだ? すっげえ不思議。

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