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放課後 Ⅴ
「……え?」
俺は一瞬ぽかんとして、まじまじと遊人を見つめ返す。
まだ春の名残がある柔らかな陽射しが、遊人の周りできらきら光ってた。
今の季節って、こんなキレーだったっけ……。
ぼんやり思う俺に向かって、遊人はくしゃりと笑い、――あろうことか俺の額にデコピンをかましてくれやがった!
「――いって!!」
「あははー、すきありィー」
涙目で抗議する俺。けらけら笑う遊人。
下校する他の生徒の目も気にせず、俺らはじゃれ合った。
遊人の細い腰にタックルをして。しがみついて。
そしたら、遊人が俺の頭をわしゃわしゃし出して。
仕返しに俺も脇をくすぐってやった。こちょこちょ。
――遊人はくすぐられるのが大のニガテ。
予想通り、身体をふたつに折る勢いで遊人は悶えはじめた。
「あひゃひゃ、ちょっ……ダメぇぇ!」
「観念しろよ! 遊人!」
……はたから見たらアブナイ関係に思われたかもしれない。
俺はちょっとだけ周りの目を気にして、くすぐっていた手を止めた。
はぁはぁと、身体を屈めて遊人が荒い息をつく。
「――だから、翼はさ?」
え、「だから」って、何が「だから」?
コイツの話は脈絡なさすぎ。
呆れる俺をよそに、遊人はまだ息が調わない様子で続けた。
「俺の名前と違って、どこにだって飛んで行けそうで、……羨ましい」
――「羨ましい」なんて……初めて言われたんだけど。
「単なる名前なんだから、遊人だって、行こうと思えばどこにだって行けるだろ」
どこにだって――。
俺は、俺の表情が遊人にばれないように顔を背ける。
だって、俺の方なんだ。
行くのは、お前を置いて行くのは、……俺の方、なんだ。
身体を起こす遊人に、俺は告げる。
なるだけ早口で。
世間話と思ってくれるように。
「――俺、転校すっから。明日。もう遊人とは会えねぇな」
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