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前夜

 夜。俺は自分の部屋で、意味もなく携帯をいじっていた。  もう引っ越しの準備は出来ていて、ベッドと制服、少しの着替え以外はみんな段ボールのなかに詰め込まれてる。  六畳の部屋にどでんと積まれた段ボールが、やけに寂しく感じて、俺は携帯の画面に目を落とした。  アドレス帳を見れば、そこには遊人の携番もメアドも登録済み。  いつでも連絡が取れる証。  そうだよ、今の時代ちょっとくらい離れた場所にいたってたいした問題じゃない……はず。  だってよく考えろよ俺。  電話も出来るしメールだって出来んだぜ。  じゅーぶん遊べんじゃん。  それをまるで今生の別れみたいにさ、凹むことなんかないって。 「……アレ?」  俺ははっと顔を上げた。  そのまま首だけ傾ける。斜めに。  だって。  つーことは、つまり俺は凹んでるわけ?  帰りからずっと胃の辺りが痛いのも、そのせい? 「……………」  微妙なポーズで首を傾げたまま、俺はしばらく固まった。 「……わかんねぇから、まあいっか……」  呟いて、考えることを放り投げる。  その勢いでベッドに背中から倒れ込んだ。  ぼすん。  あー、なんか急激に眠くなってきた。  うつらうつらとする俺の手元で携帯が震える。ぶるぶると、何かのリズムを刻み出す。  もそりと上半身だけ起こして、携帯を開いた。  メール?  しかも遊人から。  俺は特に何も考えず、いつものように本文を確認する。 『ハローハロー☆  わたしメリーさん。今あなたの家の前にいるの』  遊人……お前やっぱバカだろ……。

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