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前夜 Ⅱ

 慌てて窓を開けて下を覗けば、家の前の道路にバカ……じゃなくて遊人の姿。  少し離れた十字路の、街灯の下。白い光に照らされながら、電柱に背中を預けてる。  俺と目が合うと、こっちが恥ずかしくなるくらいぶんぶんと両手を振ってきた。  そんで、家の方へ跳ねるように歩いて、また立ち止まる。  ……何やってんだ?  俺は窓枠に肘をついてもたれかかりながら、首をひねった。  少し水分の多い夜風が、さあっと窓から俺の部屋をめぐってく。暗い空が三日月の形に黄色く切り取られてた。  遊人はパーカーのポケットから何かを取り出す。そのまま手元でごそごそ。  すぐに俺の携帯が震えた。  またメール?  まだ開いたまんまだった携帯画面に、新着メールのお知らせが表示される。  差出人は、もちろん遊人。  俺はわけがわからないままにメールを開いて、 『ハローハロー☆  わたしメリーさん。今あなたの家の真ん前にいるの』  ――今度こそ呆れ果てた。  遊人……、お前いつまでメリーさん引っ張る気だ?  そう思って睨みつけようとして、俺は窓から身を乗り出す。  遊人はホントに家の真ん前にいて、こいこいと手招き。  それ見たら、なんか行かなきゃいけない気がしたんだ。  とるものもとりあえず、俺は部屋を飛び出して階段を駆け降りる。  ずだだだっ、と響いた足音に母さんがなんか怒ってたけど、それはあとで聞くとして。  玄関のドアを開ける。  水の匂いを含んだ空気が俺を包む。  ぽっかり浮かぶ三日月と。  夜でもよくわかる、柔らかい猫っ毛に、くしゃりと笑った―― 「や。メリーさんです♪」  遊人もといバカ。

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