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第7話
俺の涙が止まり、呼吸が落ち着いてきた。「ご飯まだ食べれそうだったら、食べてから話そうか?」と提案があり、食事を再開する。
七瀬さんは食事中にステンドグラスの事を話してくれた。ここから1時間弱のところにステンドグラス工房があること、何度も足を運んで職人さんと仲良くなった事。時々小さい小物作りを手伝っている事。楽しそうに話す七瀬さんを見ながらの食事はとても美味しく感じた。
綺麗に食べきり、そっとお箸を置く。
「ごちそうさまでした。」
「お粗末様です。」
七瀬さんはお盆を洗い物置き場に持っていった後、店の表に出て、営業中の札を裏返した。
「あ…お店すみません。俺はまた日を改めてでも……」
「大丈夫。個人経営の利点だよ。元々この時間はお客さん少ないし。俺もちゃんと聴きたいからね。」
「…ありがとうございます。」
何故俺に優しくしてくれるのか不思議だったが、出会って間もない俺の事をここまで気にしてくれるのはとても嬉しかった。
七瀬さんが席に戻り、「話せそうになったら話してみて。」と微笑まれた。七瀬さんの笑顔を見ると安心する。
俺は力の入った肩を落とし、ゆっくりと1回息を吐き、途切れ途切れになりながら話し始めた。
一般住宅の営業部に所属し、仕事をするのは遅かったが、大きなミスなく出来ていた事。5年目からミスが目立ち、仕事がうまくいかず、きつかった事。
フォローしてくれる人は先輩だけで、他の人との人間関係も悪くなり、居づらかった事。それから大きなミスをしてしまい、夜も眠れなくなってしまったので、会社を辞めた事を話した。
そして辞めて1ヶ月が経つが、就職先が決まらないこと、また同じようにミスをするんじゃないかという不安で積極的に就活が出来ない自分が嫌になること…。
七瀬さんは俺が話している間、相槌や優しい目で聞いてくれた。
「あと…」
これは言うべきか言わないべきか迷った。でも真摯に受け止めて聞いてくれた七瀬さんには伝えたいと思ったのだ。
「うん」
俺が話し出すのをゆっくりと待ってくれる。
「た、多分…ストレスか何かで、今、味を感じなくなってて…。」
「…そうだったんだ。」
料理人に味覚障害を言うのはとても失礼な事だと思った。
七瀬さんなら受け入れてくれるだろうとは思っているが、もしかして嫌われるかもしれないという恐怖も拭いきれず、大腿の上で拳を強く握りしめる。
「でもっ…、食事の食感や熱さはわかって…。俺は…、ここの雰囲気も…七瀬さんの食事も…人柄も…好きで……、癒しなんです。また食べに来たいって思える場所なんです。」
七瀬さんは目を見開いて、少し赤くなった顔で俺を見つめていたが、下を見ていた俺には見えなかった。
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