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第9話 七瀬side
顔の火照りが落ち着くのを感じ、ゆっくりと顔から手を離す。風間君と目が合うと、少し口角を上げて微笑まれた。
改めていい子だなと思わせる。
「仕切り直して…。風間君。つらい話聞かせてくれてありがとう。」
「…え。」
大きな目をさらに開いて驚いている様子は、ここに初めて来た時よりも元気そうで、血色も良くなった。
初めて来た時は、目の下の隈が見え、髭がうっすらと生えていた。見た目が若く見えて、大学生だと思っていたので徹夜でレポートとかしたのかなと思っていた。
疲れているはずなのに、しっかりと「いただきます」「ごちそうさま」と挨拶をしたのはとても関心した。外食先で言う人は思いの外少なく、いい子だなと思い、記憶に残っていた。
少し間を空けて食堂に通ってくれるようになって、少し話ができると時にお互い自己紹介をした。快く受け答えをしてくれるので暇な時は声をかけるようになった。
そして今日。
いつも黙々と食べていたのに、今日は箸が止まっていた。飯が進まないのが気になり、他のお客さんが帰った後、声をかけたのだ。
どうしたんだろうと思っていると、29歳で会社を辞めて就活中だと知った。あどけない態度などから働いている感じはなかったので驚いた。
就活で悩んでいると聞いて、年齢を間違えた事による若干の気まづさも加わり、年上として相談に乗ってあげようと身の上話をしたのだ。
俺の話を聞いて泣いて、身の上話をしてくれた風間君は思っていたよりもつらい状況だった。
「俺ね、風間君の話聞いて、2.3個疑問があるんだけど聞いていい?」
「あ、はい。」
「入社5年目から急にミスが増えたの?何か新しい仕事が増えたりした?」
話を聴きながら、普通に考えておかしな話だなと思った。人間なので、ヒューマンエラーは有って当たり前だ。5年間そんなにミスをしていないのに急に増えるのは不思議でならない。
「あ…えと…。最初は小さいミスが少しずつ増えてきて…。ミスしないように自分でダブルチェックしたりしてたんですけど…。カバー出来ないぐらいミスが続いて……、どんどん仕事も溜まって、対応出来なくなって……。5年目から、仕事が増えたのはないです。入社3年目から新人教育をしたりはしましたが、…最後は外されて……。」
「そっか…。思い出させたね。ごめんね。」
「いえ…。こちらこそすみません。こんな話……。」
「謝らないで。俺が聞きたいって言ったんだから。言ってくれてありがとうって思ってるから。」
「は、はい。」
自分を卑下して、謝る風間君は心地の良いものではない。謝られすぎると、こちらまで悲しくなる。
「もう一個質問ね。ミスが増える前は人間関係どうだったの?」
「人間関係……。仕事以外の会話はあまりしなかったので、特には……。飲み会の席でも当たり障りのない会話をしていたと思います。ミスが増えてからは色々とあったんですけど……。」
「……そっか。」
風間君の返答を聞いても腑に落ちなかった。急にミスが増えるのは何らかの原因がある筈なのに、よくわからない。その場にいないため、風間君本人が原因なのか、外的要因なのか俺には判断はつかなかった。
でも……
こうやって話してくれている風間君が原因ではないような気がした。
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