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第10話

「じゃあ風間君の話を聞いて俺が感じた事言っていい?」    どきりとした。こんな話をしてしまった俺に対してどんな言葉をくれるんだろう。   「あ、はい。」      間を溜めている間どきどきと緊張する。   「頑張りすぎ!」   「え」    七瀬さんがずいと前に身体を乗り出し、距離が近くなる。     「身体が資本なんだから。無理はいけないよ。まして心の傷は見えないから厄介だし。」   「……はい。」  真面目な顔で言われる。頑張りすぎ…。仕事している時は「頑張ってないから仕事が終わらないんだ」と言われていたから、自分は努力が足りないんだと思っていた。    俺なりに頑張っていたことを認めてもらえたようで嬉しくなる。   「今辞めてどれぐらい?」   「大体1ヶ月ぐらいです。」   「1ヶ月か。身体も本調子じゃないのに就活してるって事は何か込み入った事情でもあるの?」    込み入った事情?ああ、お金がいるとかって事かな。お金は使う暇もなかったので一時は困らないぐらいの貯えはある。 「いや…込み入っては、ないんですけど……。このままじゃ不安で。」  それよりも不安が強く流れてくるのだ。    父さんの顔が思い浮かぶ。父さんは働きたいという重いがあっても気持ちが追いついていなかった。心も身体も仕事を拒否してた。もう俺もそういう状態なんじゃないか、俺も働けなくなるのだろうかとちらちら頭を過ぎる。   「不安か……。でも身体治す事が一番じゃないかな。就職する不安もあるなら特に。」   「……そうですよね。」    ごもっともな意見だった。無理しても繰り返すだけだ。    でもいつ良くなるのだろう。    …良くなる確証もないのにこのままでは家族にまで迷惑をかけてしまう。    俺が返事を窮していると、七瀬さんは「仕事してもしなくても不安かぁ…」と呟き、身体を反り、顔ごと上に向けて腕組みをして考えてくれる。    思案してくれた後、「ああ、そうだ」と体勢を戻した。   「いきなり仕事はきついかもしれないし、短期のバイトとかで慣れたら?」    短期のバイト。就職よりも垣根は低く感じる。バイトであれば、責任の重い仕事は回ってこないだろうし、このまま無職よりも気持ちが楽になる気がする。   「そうですね。それが良いような気がしてきました。」    バイトを始めれば、母さんも兄さんもひとまず安心だろう。父さんにも自分探しとか理由をつけて辞めた事を言えそうな気がする。   「帰りバイトの求人見てみます。」      何のバイトにしようかな。大学でコンビニのバイトしてたから、要領もわかるしいいかもしれない。したことないバイトも今の気持ちだったら出来そうな気がした。    腑いていた気持ちが浮上してきている。これも七瀬さんが自分の話をしてくれて、俺の気持ちを吐き出させてくれたからだ。家族だからこそ心配してくれている母さんや兄さんには弱音を吐くことが出来なかった。話すことでこんなにも心が軽くなるもんなんだと風が通ったようにすっきりとした。   「七瀬さん。本当ありがとうございます。おかげで気持ちが楽になりました。」   「本当?そう言ってもらえるならよかった。」    貴重な時間を割いて付き合ってくれた七瀬さんの笑顔は満足そうだった。     「じゃあ七瀬さん。また来ます。」    話も一区切りしたので、支払いを済ませ、出口へ向かう。   「うん。待ってるよ。無理はしないようにね。」    笑顔で手を振ってくれたので振り返し、その足でバイトの求人情報を手に取りに行った。    

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