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第13話

「七瀬さん。俺そろそろ短期のバイトをしようと思ってます。」   「お、1つランクアップするんだ。」   「はい。」    日雇いバイトの経験は10を超えた。仕事に対する恐怖は息を潜めている。俺はそろそろ短期のバイトをして今度は少し長く同じところで働いてみようと思えるようになった。   「何のバイトするか決めたの?」   「はい。清掃業者にしようかなって思ってます。」   「清掃業者?ああ、確か2回同じ会社行ってたね。」    俺は色んな職種を体験したが、一番楽しかったのが清掃業者だった。社長含め、従業員5名の小さい会社でハウスクリーニングが主な仕事内容になっている。 1回目は1DKの独身女性のお宅だった。彼女がいたことがない俺は女性の部屋なんて入ったことがなかったので、緊張していた。俺を含むスタッフ4名で仕事をする事になっており、フルタイムでそんなに人数が必要かと不思議に思っていたが、中を確認するとすぐに理解できた。    玄関から靴が溢れ、床は服やらゴミやら小物やらで見えなくなっていた。 「よろしくお願いします〜」  そう言って出てきた住人はとてもスタイルのいい美人だった。俺が目で驚きを示すと、一番年上のリーダーが「彼女は常連さんなんだよ」と耳打ちし、人は見かけによらないって本当にある話なんだなと実感した。  色々とアドバイスをもらいながら作業をし、部屋が見違える程綺麗になった。    部屋が綺麗になっていく過程は楽しくて、そこで働いているスタッフの人も接しやすく、もう一度働いてみたいと思い後日連絡した。 今度は独身男性の部屋へ行くことになった。 妻に先立たれ、家族が片付ける暇がないので片付けてくれという家族からの依頼だった。キッチンには大量のカップラーメンの空があったり、本やゴミや服などが散在していた。前回の女性は常連さんなので、部屋を出ていって業者だけの作業だったが、今回は初回の人で捨ててはいけないものなどを聞きながら作業した。清掃中に思い出の品が出てきたようで「ここにあったんだな」とぼそりと言って、大事にポケットにしまっていた。    業務が終了し、やはり綺麗になる過程は楽しかった。2回目も充足感で満たされる。   「部屋が綺麗になるのも、大切な物が見つかったりするのも、身体を動かすのも好きだなあって思ったんです。あと職場の方々が優しくて。」  従業員5名という小さい会社だからか2回のバイトとも、アットホームで気負いせずに接することができたのだ。   「すごいね。楽しいって思える仕事見つけれたのは。人がいいのも安心だね。」   「はい。」   「いいと思うよ。無理はしないように頑張ってね。」   「…っはい!」    七瀬さんの後押しを糧に、俺は店を出た後、清掃業者に電話をし、7月28日から8月31日までの約1ヶ月間の短期バイトを行うことになった。

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