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第15話

「深見君がこの仕事してるのは人の内側が見えてぞくぞくするからって言ってたんです。ぞくぞくするって楽しいって事ですよね?俺はまだぞくぞくするって感じはないんですけど、この1ヶ月で感じてたらいいなって思ってます。高田君は無口だけど、結構嫌な事とか顔に出てて面白くて。俺よりも若いんで、なんか可愛く見えました。前園さんは本当教え方が丁寧なんです。俺に出来るか確認しながら進めてくれるので仕事がしやすくて。いいお兄さんって感じです。俺、ここ選んで本当よかったです。」    今日はバイトが休みで話をするためにまた人の少ない時間を選んで訪れた。先客がいたので、食事が終わった後もお客さんが帰るまでジュースを飲んで待っていた。  バイト内容はプライバシー保護のため七瀬さんに詳しくは言えない為、美輪クリーニングの従業員の話をよくしていた。よく聞いてくれるので、俺は話が止まらず饒舌に話す。   「…楽しそうでいいなぁ。俺も食堂休んで一緒に働こうかなー。」   「えっ。大丈夫なんですか?来て欲しいですけど、バイト終わりにここでご飯食べる楽しみがなくなっちゃうのか…。」   「…冗談だよ。いつでもここでお待ちしてます。」   「冗談ですか。びっくりしました…。」    ほっと息をつく俺を見て、にっこりと笑う七瀬さんだったが、なんだかいつもと違う雰囲気を感じた。どう違うかはうまく言えないけれど。身体の具合でも悪いのだろうか?   「七瀬さん、今日何か調子悪いんですか?すみません。聞いてもらえるの嬉しくて喋りすぎてしまいました。俺の話面白くないのに、付き合ってもらって…。」    聞いてくれていたので、いつもの調子でたくさん話してしまった。何ともない話も具合が悪かったりしたら人の話を聞くのもきついだろう。   「あ、また卑下した〜。残り4回…って言いたいところだけど、今のは俺が悪いからカウントなしね。調子悪くないよ。風間君の話もちゃんと聞きたい。何というか…可愛い息子が親元を離れていった寂しさを感じてね。」   「む、息子…?」    息子にしては年が近すぎる気もするが…。あーと呻きながら机に顔を突っ伏している七瀬さんを見て、一つピンと思いつく。   「何か悩み事ですか?俺でよかったらお話聞きます。いつも聞いてもらってすごく嬉しいから。」    七瀬さんは顔を少し上げて俺の顔を見た後、「いい子すぎる…」と呟き再度突っ伏した。   「いい子?俺が?」  よく分からず頭の上に疑問符を浮かべていたが「……秋の限定メニューを何にしようか考えてたんだよ。」という声が聞こえた。   「ええ、すごい。こんな早くから考え始めるんですね。確かサラダうどんも夏限定ですもんね。メニューかぁ。秋っぽいのって何かありますかね…」    秋といえば松茸、さつまいも、なす…いっぱいあるな。炊き込みご飯とか秋っぽい気がするな。  せっかく言ってくれた悩みを少しでも俺が力になれたらいいなと思いながら、この後七瀬さんとメニューについて話し合った。          

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