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第22話
「あれ……?」
トイレから戻ってきて、食べ飲みを再開する。先輩はあえてハヤナの仕事については話さなかったので、俺も嫌な気持ちを思い出さずに済んだ。先輩の友達の話やテレビの話をしてくれて、面白くてたくさん笑った。楽しい話なのに、何故だか眠気の波が徐々に強くなる。
「………風間どうした?」
「えっ、あ、すみません。お酒飲み過ぎて眠くなっちゃったみたいで…。」
「大丈夫か?飲み始めて2時間経ったしそろそろ出るか。」
「…はい。すみません。」
「いいよ。気にすんな。」
酎ハイ3杯と飲み会の時と同じぐらいの量しか飲んでないが、最近飲んだりしてなかったしお酒に弱くなったのかもしれない。このまま寝てしまって先輩に迷惑かけるわけにもいかないので、先輩とともに帰り支度をする。
一足先に先輩は部屋を出て、俺が後を追いかけるとすでに会計を済ませていた。
「あ、いくらでしたか?」
「いいよ俺が持つ。そのかわりまた食事付き合ってな。風間と話せたの楽しかったから。」
「…はいっ。ありがとうございます。ご馳走さまです。」
先輩が楽しく過ごせたと言ってくれて良かったと嬉しくなる。居酒屋を出ると、むわっと暑さが身体を包む。
「うわ、外あつー。」
「ですね。」
トイレに行った時よりも足取りが怪しくなっており、ふらふらとなってしまう。歩いたら眠気も覚めるだろうと思っていたが、夏の暑さが加わり逆に身体が重く感じる。
直線上で表現するのであれば、駅、ハヤナ、俺の家という順番であるため、駅から俺の家は徒歩で20分以上かかる。
時々ふと眠気が強くなり、瞼が落ちて、身体も崩れ落ちそうになる。
「…おい風間。聞いてたか?本当大丈夫か?すごいふらふらしてるぞ。」
「あ、すみません…。」
家までまだ距離はある。このままでは家にたどり着ける感じはなかった。タクシーを捕まえるにしてもタクシーの中で寝そうだ。それでは運転手に迷惑をかけてしまう。
「風間んちはこっから近いのか?」
「あと20分ぐらいですかね…」
「結構かかるな。」
「…先輩んちはどこらへんですか?」
そういえば同じ帰り道を帰っていたが、先輩も同じ道なのだろうか。
「俺は電車乗って20分ぐらいのとこだな。」
「えっ電車?」
駅前で飲んでいたのに少し歩いて駅から離れてしまっている。
「先輩駅遠ざかってますよ…」
「知ってるよ。でもふらふらしてる風間見てから心配で送ってやろうかと思ってな。送るって言ったら拒否するだろ?」
「…送ってくれてたんですか?すみません。俺、ちょんと帰れます。」
「ちょんとって呂律も回ってないじゃん。さっきの俺の話にも返事出来なくなってるし、ほっておいたらそこらへんで寝そう。タクシーも寝落ちしそうだし。タクシー拾ってちゃんと家まで見届けてやるよ。」
先輩の迷惑になることは避けたかったがこうやって会話している間も寝そうで危ない。先輩は嫌な顔をしていないし、善意で言ってくれているようだ。俺は先輩の提案に甘えることにした。
「すみません…。ではおそとばに甘えて、お願いします。」
「…くく。お願いされます。」
ここに座っててと言われ、植木の周りのブロックに腰を下ろす。先輩が路肩に出てタクシーを止めようとしてくれている。
ああ、やばい。座ったら眠気が強くなった。起きてなきゃ。………。
「……ま、風間!」
「ふぇっ」
「タクシー捕まえたぞ。ほら住所言え。」
「す…ません。」
動きたくないと言っている身体を何とか動かし、先輩の肩を借りてタクシーに乗り込む。住所を何とか言うとタクシーが出発した。
「風間このまま寝そうだな…。部屋番号と家の鍵教えろ。」
「あ…、はい。202です。……鍵は…ここ。」
鞄の内ポケットに入っている鍵を手に取ると先輩が受け取った。
「眠たいだろ?寝ていいぞ。俺が責任持って送ってやるから。」
大腿部を先輩の大きな手でリズムよく叩かれ、タクシーの涼しいエアコンに当たると、とうとう眠気に抗えなくなった。先輩に申し訳ないなと思いながらも、俺は意識を手放し、横にあった温もりに寄りかかった。
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