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第23話
遠くでアラームの音が聴こえる。ああ、もう起きる時間だ。今日もバイトしっかり頑張らないと…。いつもの定位置に手を伸ばすが、携帯に触れずアラームは鳴り続けている。
「あれ…?」
眠たい目を開けて、寝返るがやはり携帯は枕元にはない。少し離れた場所で音が聴こえた。身体を起こすと、ずきんっと頭痛を感じ、いつもよりも身体が重たく感じる。ベッドの横にあるコンセントの下に充電されている携帯を見つけた。
何でここに置いたのか不思議に思ったが、とりあえず鳴り止まないアラームを止めに動いた。画面をタッチして停止し、アラーム画面を消す。
ホーム画面に戻ると、メッセージアプリに通知が来ていることに気づいた。タップして中を確認すると『但馬洋行 』の横に通知があった。
俺はこれを見て一気に目が覚める。
「うわっ、俺っ、昨日…!」
次々と記憶が蘇り、先輩におんぶで部屋まで送ってもらったことや、着替えを手伝ってもらった事を思い出す。
「やばい、やばい…っ」
俺は1人百面相をしながら急いで画面を確認して、先輩からのメッセージを見る。
『昨日はありがとな。また飲みに行こう。あの後寝たから、鍵かけてポストに入れてるぞ。部屋はもう少し掃除しろよ(笑)また連絡する。』
「う、うわぁあ〜っ」
俺は携帯を握りしめて1人悶える。俺の醜態には触れずに部屋の汚さにだけ触れている先輩の優しさが逆に恥ずかしい。話題になってもどちらにしろ恥ずかしいので一緒だが。
「昨日の俺を消え去りたい…。」
俺は嘆きながらも先輩に返事を送るため、画面とにらめっこする。
『昨日はありがとうございました。所々曖昧なのですが、覚えている限りでもご迷惑をたくさんかけてしまってすみません。次飲みに行った時は是非俺に払わせて下さい。掃除は頑張ります。俺からもまた連絡します。』
考えながら送信した後、携帯の時計を見ると、バイトの時間が近づいていることに気づく。ゆっくり支度するために余裕のある時間にしているが、今からシャワーを浴びたり、身だしなみを整えていたら時間はギリギリだ。
携帯を鞄に入れ、着替えを持って風呂場へ行く。急いで全身を洗い、タオルドライをしながら洗面台の前に立つ。鏡で髭が生えてないか確認をしていると赤くなっている場所を見つけた。
「うわ、胸のとこ虫に刺されてる。何でこんなとこ…。……あ、ダニか……。」
色素が薄く、コンプレックスであるピンク色の乳首の横が赤くなっていた。鬱血したようになっており、肌も白いのでよく目立った。
万年床の布団はいつ干したか覚えていない。とうとうダニが発生したのかとげんなりする。バイトを始めて、家の中を綺麗にしたのは随分前だ。床はかろうじて見えるが、美輪クリーニングに頼んでもあいぐらいの荒れ方はしている。先輩にも掃除しろと言われたし、掃除もしないとなと考える。
「いや、でもまずはバイト行かないと!」
俺は自分の事よりもまずバイトに間に合うように、頭を切り替える。食パンを何もつけずに牛乳で流し込み、いつもより急ぎながらポストに入っていた鍵を取り、せわしなくバイトへ向かった。
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