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第29話
その後は七瀬さんはライト2個を完成させるための作業に入った。俺も何か作るか聞かれたが、七瀬さんのライトが出来る過程を見てみたかったので、隣で見学していいか確認した。「恥ずかしいけど、いいよ。」と七瀬さんが少し照れながら了承してくれたので、隣へ腰かける。ハンダや細かいガラスが目に入ると危ないとのことで、ハンダの時に付けていたゴーグルを再度付けて見学した。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「すごい!」
「やっと完成〜。」
秋を彷彿 とさせるライトが2つ完成した。キラキラとした暖色系の曲線が正方形に収まっており、宝石箱みたいだ。
「七瀬。電気つけてみるか?」
「いいんですか?やった!」
七瀬さんは嬉しそうな顔でライトを持って、表の商品が陳列されている部屋へ行く。俺もその後をとことことついて行った。
天井に張り巡らせている照明プラグに椅子を使ってライトを差し込む。ライトの中に電球を回しこむと白熱灯の光がステンドグラスを照らす。
「おおー。」
「いいじゃねぇか。」
七瀬さんが感嘆の声を上げ、浅田さんが賛同した。
すごい。バラバラだったガラスがひとつの形を作って、こんなに綺麗に照らしている。1ピースであれだけ時間がかかったので、何度もここに通って出来たのだろう。一から作り出した七瀬さんを尊敬する。秋になったら、なな食堂をこの照明が彩るのかと想像してわくわくした。
「七瀬。何度もガラス割っていつ出来るか不安だったが、いいデザインだな。」
「う…。だって曲線は難しいじゃないですか。でも褒めてくれてありがとうございます。」
ライトを取って、椅子から降りた七瀬さんを浅田さんが小突いていた。本当仲良いなあと、くすっと笑うと七瀬さんと目が合う。
「風間君も最後まで付き合ってくれてありがとう。お陰で完成したよ。」
「いえいえっ。こちらこそ見せてくれてありがとうございます。すごく綺麗です。」
嬉しそうに笑う七瀬さんを見ると、胸の真ん中が温かくなるのを感じた。
「もうすぐ5時か。結構いたな。」
浅田さんが腕時計を確認する。
「そうなんですね。時間経つの早いなあ…。」
夏なので、日はまだ高いが、店内の時計は4時52分を指していた。
「風間君ごめんね。遅くなっちゃって。」
「いえ!本当に見れてよかったので謝らないで下さい。」
ライトを小さめの段ボールにプチプチに包みながら七瀬さんが謝るのを俺は慌てて気にしないでほしいと伝えた。
「よし。じゃあ最後に写真撮るぞー。」
浅田さんがエプロンの中からデジタルカメラを出して、レンズをこちらに向けてきた。
「えっ写真?」
「おう。体験してくれた人を写真撮って、アルバム作ってんだよ。俺しか見ないやつな。ネットとかにアップしないからいいだろ?」
「それは全然いいですけど…。」
急な展開に驚いただけで、別に写真を撮られるのは抵抗はない。
「えっ俺のライト包みましたよ!」
「お前は10回以上登場してるから、ネックレスだけで十分だ。」
「…さっき褒めてくれてたのに。」
七瀬さんは口を尖らせながら、俺の横へ来る。七瀬さんと俺の首元にはそれぞれ作ったネックレスを身につけている。「やっぱ今日の服に合ってるね」と七瀬さんが言ってくれたので、また出かける時は身につけようと思った。
写真は浅田さんしか見ないって言ってけど、記念に俺もほしいな…。
「浅田さん。俺の携帯でも撮ってよ。」
「ああ、いいぞ。先にこっちからだ。撮るぞー。はい、チーズ。」
間もなくフラッシュの残像が目に残る。七瀬さんは携帯をカメラモードにして、浅田さんに教えようとしていたが、「これぐらいわかるわ!」と一掃されて、俺の隣へ戻ってきた。写真がほしいと思っていたので、七瀬さんに後で送って下さいと頼むと嬉しそうに「いいよ」と返事をくれた。
「はいもう一枚ー。はいチーズ。」
カシャカシャカシャと連写の音が聞こえる。
「えっ何で連写モードになってるんですか。浅田さん別の所触ったでしょ。」
「さ、触ってない!気をきかせただけだ!」
何で変に強がるんですか〜と七瀬さんも最後まで楽しそうでだった。そんな七瀬さんを見て俺も楽しくて、嬉しくて、こんな風に七瀬さんと話せるようになれたらいいなと思い抱 いた。
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