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第28話
「よし、じゃあ奥で作業するか。」
浅田さんは歩き出し、俺たちも続いて扉の奥へ入っていく。扉を抜けると、こちらにも色とりどりの作品が壁に掛けられている。
「へぇ…作るところにもステンドグラスがあるんですね。」
「おう。壁に掛けてるのは俺が見本として置いてる分だ。机に並んでるのは生徒さんたちのな。生徒さんのはまだ未完成品だから、触らずに覗く分はいいぞ。」
壁にはキャラクターの絵や教会など、表に出ていた商品と同じようなクオリティのステンドグラスが飾ってある。壁に沿った机には殆ど完成品に見える物から小さなガラスのパーツが入った箱など様々だ。生徒さんの作品とのことであるが、すごく上手い。中央のテーブルに機械類が置いてあり、そこが作業場のようだ。そういえば七瀬さんも作りかけの作品があるって言ってたな。どれなんだろう。
「七瀬さんが作ってるのってどこかにありますか?」
「うん。俺のはこれ。まだハンダしてないからバラバラのままだけどね。」
1つの箱の前に近づくと、赤色やオレンジ色、黄色などの暖色系の曲線ガラスがいつくもあった。
「で、これが完成予想図。」
箱の下の方から一枚紙を取り出す。紙にはキューブ型のライトの設計図が描いてあった。
「わあ。お洒落…。」
「ありがと。食堂のライトを春夏秋冬で変えたいなって思って。これは秋用のを作ってるんだ。」
「…すごい。じゃあ今のは夏仕様?」
「そうだよ。」
中の照明はあんまり見ていなかったことに気づいて、記憶を絞り出す。黄色とか透明のガラスだった気がする。今度行ったときにちゃんと見ようと思う。
「よし、じゃあ2人ともまずガラス選ぶか。」
浅田さんが、よりどりみどりの小さいガラスが入った木箱を持ってくる。似た系統色で区切られており、パレットみたいに綺麗で目を輝かせる。
「すごいいっぱい!」
「色んな作品端切れが出るからそれの寄せ集めだ。形は後で綺麗に切れるから好きな色選んでいいぞ。」
「はいっ。」
どれがいいか思案する。マーブルや不透明のガラスもありさまざまだ。隣で七瀬さんも一緒に選ぶ。
「好きな色とかある?」
選んでいると七瀬さんが声をかけてくれた。
「好きな色……。エメラルドグリーンとか好きです。」
「ああ、いいね。宝石とか海とか湖の色連想して綺麗だよね。」
「はい。このネックレスも海みたいで綺麗だなって思ったんです。」
俺はそれから緑や青系統を中心に見ていく。
「七瀬さんは何色が好きですか?」
「俺は黄色が好き。どのグラスと一緒にしても色が映えて綺麗なんだよね。」
「へぇ〜…。黄色って万能なんですね。」
その後も色々と悩んだが、結局透明感のあるエメラルドグリーンを選び、七瀬さんは茶色と黄色のマーブル模様を選んだ。
「選んだな。じゃあこっちに来い。」
「はいっ。」
浅田さんが作業台の席に案内する。机の上には隣同士でそれぞれ工具が並べて置いてあった。
「まずは油性ペンで切り取るガラスのラインを描く。」
見本と同じ大きさでいいならここにある型紙を下に敷いてガラスの上からペンでなぞるといい。とのことで、七瀬さんの後に俺は教えてもらったように、型紙を借りて上からなぞる。
「ん、いいな。じゃあ次はこのオイルカッターでガラスに切れ目を入れる。」
鉛筆のような形で、先にルーターのようなものが付いている。
「この真ん中の車輪のところでガラスを切る。ガラスに垂直に当ててそれを少し寝かした角度、75度ぐらいが一番いい。」
こんぐらい…と、浅田さんがガラスカッターを進めると、ギリギリギリとガラスに直線の傷が付く。
「そしてグロージングで挟み、少し力を入れると…」
グロージングと呼ばれた工具は大きなペンチのような形で先が丸くて掴めるようになっている。ガラスを挟むとパキンと音がして、ガラスが先程の直線通りに割れている。
「おお…っ」
「綺麗に割れる。これを繰り返して形を整える。」
浅田さんはその後も、一つ一つ工程ごとに教えてくれて、俺は奮闘しながら、ただのガラスの破片を徐々に見本に近づいていく。
ガラス1つだけなので簡単という事だったが、研磨作業(浅田さんがしてくれた)、ブラックホイルの呼ばれる銅テープをガラスの周りに剥げないようにヘラで綺麗に貼り付けて、フラックスと言われる液体を塗って、ハンダを流し込み、金具を付けるという色んな過程があった。
金具は選べるとのことだったが、色々と考えた結果、見本通りにネックレスにした。元々アクセサリー系は身につける習慣がなかったが、七瀬さんが「今日の服装にも似合うと思うよ。」と言ってくれたので、1つぐらい持っておこうと思ったのだ。金具を付け終わり、ガラスクリーナーで何回かに分けて綺麗にする。
七瀬さんは慣れた手付きで全ての過程を行なっていたが、俺と一緒に終わるように待ってくれたり、アドバイスをくれたりしてゆっくりと行うことができた。
「出来た…!」
俺と七瀬さんの完成したネックレスを机に並べる。見本と同じようにできたことに達成感があった。選んだガラスの色もいい。
「お揃いで旅の記念だ。…嬉しいな。」
俺はネックレスを見ながら、ぼそっと呟いた。
「本当だなー。ペアネックレスみたいじゃねぇか。」
呟いた声が聞こえていたようで前を向くと、色々と教えてくれていた浅田さんが七瀬さんを見ながら腕を組んでにやにやしている。
「…………浅田さん。ハンダゴテまだ熱いみたいですけど……。」
七瀬さんが先程まで使っていたハンダゴテを手に取ろうとする。
「おい!こっちに向けようとするな!お前怖えぞ!」
「ふっかけたのは浅田さんでしょ!」
ぎゃあぎゃあと楽しそうに話す2人に置いてけぼりで、デジャヴを感じながらも、その雰囲気が好きで俺は笑いながら楽しく聞き役に徹した。
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