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第30話
車で帰っていると夕食時になったため、通りすがりのチェーン店でご飯を食べることになった。俺は昼間食べ過ぎてお腹があまり空いてなかったのでうどんにして、七瀬さんはチーズハンバーグ定食を食べた。待っている間に連絡先の交換を済ませる。「連写した写真の中でどれがいい?まぁ変わらないか」などと笑い合いながら先程撮った写真を送ってもらった。
食べ終わった後、自宅まで送ってくれるとのことで甘える事にした。家に徐々に近づいていく。
「今日は付き合ってくれてありがとね。」
すっかりと夜が更け、薄暗い車内を町の街頭が照らす。車道を見たまま七瀬さんが話しかけてきた。
「こちらこそ誘ってくれてありがとうございます。すごく楽しくて、七瀬さんの意外な一面も見れて嬉しかったです。」
「楽しんでくれたならよかった。…意外な一面って良い意味?」
「はい。もちろん良い意味ですよ。」
「…それは安心した。」
ほっと一息ついた七瀬さんを見てくすくすと笑う。
次右です、と自宅への道順を教える。車は余裕を持って指示キーを出した後、ゆっくりと曲がっていく。曲がり終わった後、同じようにゆっくりと七瀬さんが口を開いた。
「店の定休日火曜日でさ、なかなか一緒に出かけてくれる人がいないんだ。大体出掛けるの1人なんだよね。」
「そうなんですね。」
平日休みだと会社員は基本土日休みが多いため、友達と時間が合わないのだろう。
「もしさ。」
「…?」
少しの間が空き、じっと七瀬さんの横顔を見つめる。
「風間君がよかったら、火曜日色んな所に一緒に出かけない?」
「えっ俺ですか?」
「風間君も予定あるだろうし、本当に暇な時でいいんだ。一人で出掛けても味気ないし、今日風間君と一緒に入れて楽しかったからまた出掛けたいなって思って。」
赤信号で止まった薄暗い車内で弧を描いて微笑む七瀬さんと目が合う。
「七瀬さん…」
俺はまた朝と同じようにコトコトと揺れる心臓を感受する。
「…はい。俺もまた出掛けたいです。」
いったいこの時折早くなる鼓動は何なのだろう。
「……そっか。よかった!」
初めてジェットコースターに乗った時のような、怖い映画の大音量で驚いた時のような、学生の時に初めて彼女とデートしたときのような鼓動の高まりを感じる。
また誘ってもらって嬉しいからだろうか?出かける楽しみが出来たからだろうか?
…答えはよくわからなかった。
会話がひと段落して程なく、自宅に着いた。車を降りて、七瀬さんにお礼を言う。
「じゃあまた誘うね。食堂でもお待ちしてます。」
「は、はいっ。また行きます。」
ゆっくりの去っていく車を見ながら、俺は蒸し暑い夏の夜の風に当たりながら鼓動が落ち着くのを待った。
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