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第33話
先輩はあの後もたらふく飲み、家に帰るのが億劫になったとのことで俺の家に泊まると言いだした。
「えっ。で、でも布団も1つしかないし、先輩の身体に合う下着も服もないですよ?」
明日急遽バイトの面接になり、俺はせめて夜はゆっくりと色々考えたかった。今の先輩といると、特急列車のように次々と変わるので、俺の心が追いついていけずにやや疲弊していた。
「大丈夫。よくこうやって友達んちに泊まるから下着とかの必要最低限のセットはいつも持ち歩いてるぞ。」
先輩はバッグから小さめの袋を取り出し、中身を手に取る。
「下着、歯ブラシ、肌着。シャツとネクタイの替えは会社にあるしな。」
「あ…そうなんですね。」
「寝るときは俺、パンツ一丁だから服いらないし、ベッドは男同士なんだから一緒に寝ればいいじゃないか。」
「えっ、一緒?で、でも狭いしっ。先輩は裸ですよね…?」
「以外とこれが眠れるぞ。2人で寝よう。」
「いえいえ!それなら俺は座椅子真っ直ぐにして寝ます。」
「そうか?俺は全然一緒でいいんだけどな。」
「いえ、先輩ゆっくり休んでください…。」
あれよあれよと先輩が泊まる事がまた決まってしまった。何してんだ俺。さっきから全部先輩のペースに流されてしまってる。
…でも泊まるだけだし、別にいいかな。寝てしまえば、朝がくるだけだ。履歴書も先輩が明日出勤した後に書こうと考える。
先輩とその後も少し飲んで、それぞれお風呂に入った後、先輩は布団、俺は座椅子を真っ直ぐにして横になった。
「風間、それで寝れるのか?」
「はい、寝れますよ。」
座椅子で寝たことはないが、まぁ眠くなったら大丈夫だろう。
「ん〜………、やっぱ駄目だ。」
先輩はガバッと身体を起こし、俺の手を持つと、ベッドに引き寄せた。そのままの勢いで、俺が先輩の上へと倒れこみ、受け止めた先輩が俺を抱きしめているような形になった。
「へ、うわっ、すみませんっ。すぐ退きます。」
「いやいい。俺1人ベッド使うのは申し訳ないし。一緒に寝よう。」
「い、いや。でも、先輩は狭くて熟睡出来ないんじゃ…」
「出来る。人の体温は気持ちがいいぞ。一緒に寝よう。先輩命令だ。」
「えええ……」
意地悪そうに笑う先輩に俺はもう逆らう元気はなく、大きい身体の先輩と狭いシングルベッドで寝る事になってしまった。
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