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第34話

次の日。  何だかんだ眠れてしまった。男2人が仰向けで寝るとやはり狭く、結局先輩は俺を抱き枕のように抱きしめて、先に寝てしまった。こんな体勢では絶対寝れないと思ったが、クーラーでよく冷えた中、人の体温は先輩が言っていたように気持ちよく、筋肉がまたよいスプリングとなり、朝まで眠れてしまった。先輩は出勤時間が近くなると元気よく出て行った。 俺は先輩を見送った後、履歴書を書き、約束の11時の10分前にコンビニへ訪れた。  レジに並んでいるお客さんがはけたのを確認して、レジ番をしている店員に声をかけた。 「すみません。今日11時に面接予定の風間です。店長さんいらっしゃいますか。」 「店長すか?ああ、奥いるんで呼んでくるっすね。」  レジの青年の髪型は茶髪に赤のメッシュがはいっており、サイドを刈り上げてある。耳にはぱっとみるだけでも4つ以上のピアスが見える。この人と一緒に働くことになるのかとやや不安を覚えながらも、邪魔にならないように端で待つ。流れで、バイトを受けることになってしまったけど、面接をしてもらうからには、きちんと受け答えしないといけないなと思った。   「すみません。お待たせしました。」 「あ、いえ。」  店長と思われる男性が声をかけてくれる。長めの真っ黒な前髪をピンで止め、後ろは髪ゴムで括ってある。垂れ目の下にはうっすら隈が出来ていた。目に覇気がなく、死んでいる魚の目のようにどんよりしていた。眠れてないのだろうか。店長の体調が不安になる。 「では裏についてきてもらっていいですか。」 「わかりました。」 店長さんの少し丸まった背中を見ながら、但馬先輩の周りにはいなさそうな人だなと感じた。でも色んな人と仲良くなれる但馬先輩の交友関係はやっぱり広いなと感心する。  Staff Onlyと書かれたこと扉の奥へと続く。中には10個程の縦長のロッカーと、レセプションテーブル、パイプ椅子が4つ。小さめの冷蔵庫の隣に天目板ラックがあり、電子レンジ、ポット、トースターなどが揃えてあった。 「こちらへ座って下さい。」 「はい、失礼します。」  指示されたパイプ椅子へ座る。机を挟んで、男性も席へ着く。ぎしぎしとパイプ椅子特有の音がする。 「はじめまして。私は店長をやってる根津克己(ねづかつみ)と言います。風間さん…ですよね?今日はありがとうございます。」 「いえ、こちらこそお時間取っていただきありがとうございます。風間直です。お願いします。」  お互いに深めにお辞儀する。俺は鞄の中から履歴書を出し、根津さんに渡した。ありがとうございます、と受け取り、さらっと目を通すと俺に目線を向けた。 「但馬君から昨日電話で聞いたんですけど、バイト希望という事ですごく助かります。」 「あ…はい。」 「今本当人手が足りなくて。いつから働けますか?」  志望理由とかやる気などを最初は聞かれると思っていたが、いきなり働けるか質問がきて内心驚く。 「えっと、いつからでも、大丈夫です。」 「本当ですか?明日からでもいいですか?」  根津さんの目と声に力が入る。その様子を見て人手不足が本当に深刻なのだろうと感じた。 「…はい。でもお願いがあるのですが。」 「はい、何でしょうか?」  但馬先輩には流されてここでバイトの面接に来たが、昨日寝ながら考えてた事がある。 「火曜日は休みにして欲しいです。あと、ここではずっと働く予定ではなくて……、代わりのバイトの人が入ったら辞めさせて欲しい、です。」  但馬先輩は電話では短期バイトと言ってなかったので、店長さんは長く働いてくれるだろうと勘違いしているだろうと思ったのだ。そして火曜日は食堂の定休日。もし七瀬さんが誘ってくれなくても、俺の予定は空けておきたい。 「え、新しくバイトが入ったら辞める感じですか?」 「……すみません。人手不足で困ってるのは承知の上ですが、今後の事を考えるとバイトでは不安で…。」 「まぁ、確かにそうですよね……。」  見るからに意気消沈してしまった根津さんを、見て申し訳なくなる。 「…でも短期でも働いてくれるのは助かります。火曜日休み以外は夜勤もOKですか?」 「はい。大丈夫です。」 「ありがとうございます。明日までにシフト組みますね。」 「はい。」  とりあえずお願いを聞き入れてもらい、一安心する。 「じゃあ日勤シフトからしてもらおうかな…。明日の9時に出勤してもらっていいですか?」 「わかりました。」 「あとは、何か質問なければ帰ってもらって大丈夫です。」 質問…何かあるかな…? 「えっと……あ。何か明日必要な物ありますか?」 「制服は支給するので、飲み物と食べ物ぐらいですかね。持ってこなくても、ここで買ってもいいです。」 「わかりました。ありがとうございます。」 「では明日よろしくお願いします。」  俺はスタッフルームを出てコンビニを後にする。店長の体調は気になるが、いい人そうだった。不安はあるが、決まったことなので、やるだけやってみようと歩き出した。

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