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第38話
顔の火照りが落ち着いた七瀬さんが向こうに案内板があるからちょっと見てみようかと歩いていくので、隣をついていく。
「これからどうしようか?特には考えてなかったんだ。何か行ってみたいところある?どこでもいいよ。」
「行ってみたいところですか?」
うーん…。ぱっとは思い浮かばない。
案内板の前に着いたので、目を通す。
「映画も、ゲームも、身体動かせるところもあるね。専門店もいっぱいあるし、気になるとこある?」
案内板を見ながらどれがいいかなと聞いてくれる。俺も一緒に見ながら考える。行ってみたいところ……。
「七瀬さんとだったらどこでもいいんですけど…。これからバイトの人が入ったりしたら多分今週はずっと話す時間もなくなりますよね…?なので七瀬さんとゆっくりお話できるところがいいな…。」
案内板の食事やカフェをメインに目を通して、喫茶店を見つける。
「こことかどうでしょうか?」
1階にチェーン店のカフェを指差す。様々なコーヒーの種類も飲めるが、ケーキやスパゲティなどの軽食もあり、ゆっくりと話せそうだった。隣の七瀬さんを見ると、俺の指差す場所を見て困った表情をしていた。
「喫茶店かぁ…。」
「あ、すみません。嫌でしたか?」
「えっと…、あー…うん、ごめん。どこでもいいって俺が言ったのに。…ちょっとコーヒーの匂い苦手なんだ。」
「あ…そうなんですか。じゃあ他の場所あるかな…」
他にゆっくり話せる場所がないか探しながらも、七瀬さんが何でコーヒーが嫌いなのか気になったので、疑問を口にする。
「七瀬さん、どうしてコーヒー苦手なんですか?」
「いや、コーヒーは飲めるよ。缶コーヒーとか冷たくて匂いがしないやつは全然イケる。」
「そうなんですか?じゃあ何で匂いだけ?」
「あー、それはね…」
七瀬さんが言い淀 み、気まずそうにしているのを感じ、慌てて言葉を発する。
「あ!やっぱ大丈夫です!すみません、えっと…場所どっかあるかな。」
聞いちゃいけなかったのに、七瀬さんの事知りたくて聞いてしまった。申し訳なくなり、一生懸命案内板に目を向ける。
「あ、気使わないで。いや、俺の態度がいけなかったね…。…えっと、親がさ、コーヒー好きで四六時中コーヒーの匂いが家に漂ってたんだよね。多分コーヒーの匂い嗅ぎすぎてたら嫌いになっちゃったんだ。」
顔を上げて答えてくれた七瀬さんを見ると、「子どもっぽい理由でしょ?だから言うの恥ずかしかったんだ」と軽い口調だが、笑う表情はどことなく憂 いを含んでいた。毎日嗅いでいたら嫌になるのは、毎日親子丼だったら食べ過ぎて嫌になるみたいな感じだろうか。全然子どもっぽい理由とは思わないけれど、七瀬さんの表情を見て、やっぱり言いたくなかった事を聞いてしまったんだなと心が苦しくなる。
こんな表情はさせたくないな…。
「……そうなんですね。………実は俺、ピーナッツ苦手なんです。」
「え、ピーナッツ?嫌いなんだ?」
急に俺からも嫌いな物を言ったので驚いたのだろう。七瀬さんは目を見開いた。
「はい。小さい頃にピーナッツ食べてた時にくしゃみをしてしまって、ピーナッツのかけらが鼻の方に入ってめっちゃ痛いのを覚えてて、今も食べれません。」
「ぶぶっ、何それ。めっちゃ痛そう。」
ああ、笑ってくれた。
「なかなか取れなくて。市販の鼻うがいの液あるじゃないですか?」
「え、鼻うがい…?うん、あるね。」
「あれを母が買ってきて、最終的には結構な勢いで液を入れられて、取れたんです。」
「ぶはっ…、それは災難だったね。」
吹き出すように笑ってくれて、七瀬さんの表情が明るくなった。よかった。
「すごい。めっちゃいいエピソード持ってるね。あー今日は朝からいっぱい笑うなあ。まさか風間君にまで笑わせてられるとは。」
「…今日のお笑いで鍛えられたかもです。」
「本当?それは才能開花したね。」
「また七瀬さんをいっぱい笑わせてみせます。」
俺が元気がない時、七瀬さんが俺を笑顔にさせてくれた。
俺が聞いたせいで、今は悲しい顔させてしまったけど、もし今後七瀬さんが元気がなくなったら、今みたいに七瀬さんを笑顔にしたい。
「うん。楽しみにしてるね。」
目を細めて、七瀬さんが笑う。
人の楽しそうに笑っている顔は自分も笑顔になれるんだなと気付いた。
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