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第40話
「これスライスチーズだったんですか?すごくパリパリして美味しい!」
おつまみ作るねと言われてから10分もかからずに、かりかりチーズ、枝豆のバター醤油炒め、塩昆布きゅうりが酒のつまみとして用意された。
「レンジで2分チンするだけだから、すぐ出来るよ。そういえば風間君は料理するの?」
「俺は殆どしないですね…。最後に作ったのは卵かけご飯です。」
「お、奥が深いと言われるTKGだね。」
「TKG?」
「卵かけご飯のことTKGって言うんだよ。一昔前にブームきてたんだ。実は卵かけご飯ってアレンジ色々出来るって知ってる?料理苦手な人でも簡単な作り方あるよ。」
七瀬さんはビール、俺はレモン酎ハイを飲みながら、お手製のおつまみをつまむ。どれも味付けが絶妙で、缶酎ハイだがお酒も美味しい。七瀬さんが簡単にできる料理をいくつか教えてくれて、作ってみたいなと思えるのもあった。
お酒とおつまみのおかげで、肩の力が抜け、七瀬さんと普通に話せるようになる。提案してくれて感謝だ。
世間話をした後、俺のバイトの話になった。
「俺、大学の時にコンビニバイト経験あったので、すぐ業務には慣れました。夜勤は2人で入るんですけど、店長さんと本間 君、財前 君で回してます。夜勤は清掃作業を昼間よりしっかりやるんですけど、やっぱり綺麗になるのは好きですね。」
本間君は大学3年生で、もうすぐ就活活動を控えている。人に壁を感じさせない好青年で、一緒の夜勤の時は楽しい。財前君は24歳のフリーターだ。外国に行くのが趣味らしく、お金が貯まったら旅行に行く事を繰り返してるそうだ。時間が空いた時に英語やフランス語の勉強をしており、若いのにすごいなと感心する。
コンビニの夜間はお客さんが少ないため、レジ打ちはあまりないが、その分清掃作業や器械洗浄、検品や仕出しなどの業務が増える。根津店長は俺がコンビニバイトの経験者とわかると、とても感謝してくれた。
夜勤してくれる人が少ないので夜メインでお願いしますと言われた時は、ほっと安心した。但馬先輩が風間の様子が見ることできないじゃないかと残念がっていたけれど、俺は昼間にハヤナの人に会うんじゃないかとびくびくしながら働くのは、やっぱり嫌だったのでこの勤務でよかったと思った。
「不思議なんだけど、風間君って部屋汚いって言ってたけど、清掃作業とかの仕事好きだよね?」
「えっ、何で部屋汚いって知ってるんですか?」
「この前、但馬さんって人と来た時に帰り際言ってたからさ。」
「あー………」
確かに言っていた気もする。こんな綺麗な部屋の人にはバレたくなかった。恥ずかしい。
「綺麗になる過程好きなんですけど…、自分の部屋になると気力がなくなるというか……、ぱちっとスイッチが切れるんですよね。仕事してない時はまだいいんですけど、仕事し始めると部屋が、わちゃあ…ってなります。」
「そうなんだ?うーん…、仕事に全力投球で、家に帰ったら気が抜けるのかな?」
「気が抜ける…、そうですね。そんな感じです。仕事始めるとそれだけにいっぱいいっぱいなっちゃって家事は疎かになりがちです…。」
「じゃあ今の夜勤の仕事も結構きついんじゃない?」
「あ、いえ、そんなには。最初の2日間は夜勤久しぶりすぎてめっちゃキツかったんですけど、今は慣れてきてそんなキツくないです。部屋も綺麗ではないですけど…以前よりは全然マシですよ。」
片手鍋を使って玉子丼作ったのも何ヶ月も前の話だ。でも最近は夜勤終わってゴミ出しをそのままできるので、ゴミは溜めることなく過ごせているし、服も畳 みはしないが一箇所にまとめて置いてあるし、着衣後も洗濯機へ放り込むことが出来ている。我ながら進歩だ。
「そっか。よかった。聞いてたら風間君がキツい時は部屋が散らかりそうだなって思ったから、今は少し余裕があるのかもね。」
「あ………なるほど。そうかも、しれないです。」
俺は仕事を辞めてからの自分を思い返した。
ハヤナで働いていた時は仕事のミスの不安や従業員の当たりの強さに疲弊していたし、ハヤナを辞めた後は父さんのように社会復帰が出来ないんじゃないかという不安が強かった。
日雇いや清掃会社での短期バイトの時は目の前にある事をこなしていくために、日々一生懸命仕事をしていた。
今回のコンビニのバイトは一度経験している内容で、この短期バイトが良かったら就活に本腰を入れようと思えるような気持ちになっている。俺自身気づいていなかったけれど、今までずっとがむしゃらに過ごしていたのかもしれない。
「はぁ…、七瀬さんすごいなぁ…。俺も気づいてませんでした。」
「すごい?嬉しいな。でも、そうは言っても俺は風間君の散らかった部屋見てないから想像だけどね。今度は綺麗な部屋になった風間君ちで飲もうね。」
「えっ、じゃあ掃除頑張ります!」
「くく、楽しみにしとくね。」
横で笑っている七瀬さんを見ると、また胸がトクトクと高鳴り、嬉しくなる。最近七瀬さんに対して、変に緊張したり、もやもやしたり、ドキドキしたりと自分でもよくわかっていなかったけれど、七瀬さんが言うように、少し自分に余裕が出来て、周りを見る事ができているのかもしれない。
近くに頼りになって、カッコよくて、自分の好きな事を仕事にしている、憧れの人がいるんだから、同性の俺から見てもドキドキするだろう。今までの七瀬さんに対する違和感がわかってスッキリした。
(もっと、もっといっぱい話して、いっぱい仲良くなりたいな…)
ただの客から部屋で飲める仲にまでなれたけれど、もっと近くにいたいと思う。お酒によるふわっとした心地よさを感じながら、七瀬さんの横顔を見つめた。
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