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第43話

 駅から数分歩いたところにある全国チェーンの焼肉店がランチ営業をしていたので、そこに12時に待ち合わせをした。携帯で時間を確認すると11時56分となっている。 「直、待たせたな。」  声がした方に顔を上げると、高身長にカーキ色のトップス、濃いめのジーンズ、黒のサンダルを身につけている友人がいた。 「秋鷹(あきたか)。久しぶり。」  真っ黒の短髪に、逞しい腕、がっしりとした体型は学生時代と変わらない。学生時代は黙々と身体を鍛えるのが好きなだけであったが、引越し業者として働いている今は、日々仕事で身体を使っているのだろう。 「腹減ったな。早速入ろうぜ。」 「うん。」  焼肉屋の店内は空調が整っているので、涼しく、焼肉の匂いもあまり感じない。土曜日の昼間であるためか、ファミリー客や学生と思われる若い世代が多い。スタッフに案内され、掘りごたつの一室に案内される。一通りパネル操作やサラダバーなどの説明をしてスタッフは去っていった。 「焼肉久しぶりすぎて嬉しいわ。チビが歩けるようになって火元あるところは行けんくなったし。」 「そっかあ…。火傷したら大変だもんね。」  肉、肉…と真剣な表情で選ぶ秋鷹は、2年前に大学から付き合っていた彼女と結婚し、今は1歳の男の子もいる。俺とは大学の時に授業のグループ分けが一緒になり仲良くなった。大学卒業後も、結婚するまでは、月に2.3回は会うぐらい仲が良かったが、結婚して、さらに子どもが出来てからは1〜2ヶ月に1回会うか、会わないかのペースに減っていた。清掃業者で働いている時に会ったので、約1ヶ月ぶりである。  それぞれランチメニューから1つずっ選び、秋鷹は追加でタン塩と壺カルビをオーダーした。 「直、お前ちょっと丸くなったんじゃねぇの?」  「えっ、太った?」  特にズボンが入らなくなったとかはないが、連日外食しているので、太る要因はある。お腹の肉を摘もうとするが、摘めるほどはなかった。 「太ったっていうか…、ここ最近会うたびに、顔色よくなってきてるし、飯食ってんだなあって思って。」 「うん、ご飯毎日食べてるよ。あ、そういえば味覚戻ったんだ。」 「えっ、戻ったのか?」 「うん。」 「………そうか。よかったな。」 「心配かけてごめんね。」 「いや全然いい。ハヤナ辞めた直後はやべえと思ったから、安心した。」 「わっ、ばかっ、痛いよ!」  対面に座っていたが、腰を上げ、俺の肩をばんばんと強く叩く。秋鷹は黙っているとドーベルマンみたいだが、スキンシップは激しい。秋鷹も但馬先輩も体格がいい人は、みんな力が強い。でもこうやって軽口叩けるのは秋鷹ぐらいなので、痛いと言いながら笑ってしまう。そうこうしていると、スタッフの人が七輪や頼んでいた食事を持ってきてくれた。 「俺だけ肉の旨みを堪能するのは申し訳ないと思ってたから、味覚が戻って万々歳だな。」  ランチメニューのカルビが焼きあがり、焼肉のタレに付けて食べる。 「美味しい…。久しぶりの焼肉いいね。」 「間違いないな。」  じゅーと肉の焼ける音、七輪の火、口に広がる肉汁。食欲を掻き立てられ、黙々と食べる。  お腹の具合が5割ほど埋まってくると、ポツポツとお互いに話し始めた。 「そういえばごめんね。土曜日の昼間に会ってもらって。」 「気にすんな。その分明日は俺が大雅(たいが)見て、舞衣(まい)が美容院とかに行くし。俺もリフレッシュしないとな。」 「ならよかった。ってか大雅君もう歩けるようになったんだね。この前までつたい歩きしてたのに。」  「ここ2〜3週間で急成長だ。机の端っこに置いてある物は届くから、どんどん物が置けなくなる。嫁も怒りっぽくなったし。」 「それは大変そう…。」  子どもがいない俺にはよくわからないが、仕事に家事・育児をすると聞いただけでも、自分の事で手一杯な俺は出来ないだろうなと思う。 「直は最近どうなんだ?コンビニでバイト始めたんだろ。夜勤ってきつくないのか?」 「今は慣れたからきつくないよ。夕方からバイト前まで寝て、帰ってからも少し寝てるし。」 「それならよかった。」  その後もお互いの近況報告をして時間は過ぎていく。俺は話をしながら、いつ切り出そうか迷っていた。今日は俺から会おうと秋鷹に連絡したが、それは秋鷹に相談したいことがあったからなのだ。そうこうしているうちに秋鷹は最後のシメでサラダバーにある白玉を皿いっぱいに持ってきて食べ始めた。  俺も続いて白玉をよそいながら、席に着いたら相談しようと決意する。  ガラッと引き戸を開け、掘りごたつへ座り、秋鷹に話しかけようとする。 「どうしたんだ?」 「えっ!何が?」 「百面相みたいに、色んな顔して。」  秋鷹はたっぷりの餡子ときな粉をまぶした白玉をもぐもぐと咀嚼しながら聞いてくる。話出そうとしたタイミングで聞かれたので、拍子抜けしたが、話しやすくなった。 「うん。相談したい事があって…。」 「相談?何だ?」  すごい勢いで白玉が減っている。あれだけ焼肉食べたのに、すごい胃袋だな…。 「うん。俺、男が好きかもしれないって相談したくて。」 「ぶふっ」 「うわっ!」  秋鷹の口から、きな粉が勢いよく出てきて、はらはらと舞う。咄嗟に手で自分の皿を隠すが、俺の皿までは届かなかったのでよかった。  ごほごほと咳込み、「きな粉が鼻に入った…っ」と痛がっている秋鷹の姿を見て、ピーナッツの苦い思い出が蘇えった。 「何でお前が痛そうな顔してんだよ…。」 「ピーナッツ思い出した。鼻痛いよね…。」 「ああね……。そんな事も言ってたな。」  水を飲んで、秋鷹の鼻の痛みが落ち着くのを待ち、俺は相談事を話し始めた。        

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