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第44話

「で、何で男が好きかもしれないって思ったんだ?直、大学の時に彼女いたじゃないか。」 「うん。そうなんだけど…。」  俺は秋鷹にかいつまんで今までの事を話した。なな食堂や七瀬さんの事は会うたびに報告していたので、その七瀬さんと毎週火曜日に出かけるようになり、今週の火曜日、七瀬さんちで話していたら、ゲイで、自分の事が好きだと告白された事。俺は今まで女の子しか好きになった事がないから、よくわからなくて返事を保留にしている旨を話す。 「告白された後にも、1人でずっと考えてみたんだ。最近、七瀬さん見ると、ドキドキするし、そわそわするし…。秋鷹とか、他の男の人といる時とは違うんだよね。好きって言われて嬉しかったし、告白された時は戸惑ったけど、今はその気持ちにも応えたいなとも思ってて…。でも男の人を恋愛対象として見ることを今までしたことがないから、自分の感じてる気持ちは本当に好きなのかよくわからないし。…どう思う?秋鷹。」  俺は喋り終え、短く息を吐いた。秋鷹は茶化したりすることなく、じっと耳を傾けてくれていた。秋鷹は「んー…」と唸りながら、片方の大きな手で、目を隠し、その人差し指は一定のリズムを刻んで動いている。顔は見えないが、何か考える時はこうやって昔から悩んでいた。俺はじっと秋鷹が話し始めるのを待つ。 「俺が聞いている限りだけど、七瀬さんって人の事、直は好きだとも思う。」  秋鷹に言われて、俺はホッとした。やっぱり自分の気持ちは七瀬さんを好きだと思っているんだ。自分だけではなくて、第三者の秋鷹から見ても、俺は七瀬さんの事が好きなんだとわかるんだと嬉しくなる。 「でもな…。」  秋鷹が少し間を置いて話し始める。 「直の気持ちはふわふわしてて……、その好きは尊敬っぽいし、恋してるって言うにしても、中学生の恋みたいだな。」 「好きが尊敬…、中学生の恋…?」  続いた言葉は俺が望んでいた回答とは違い、戸惑いを感じる。 「七瀬さんって人のこと、好きなんだなってのは最近よく話に出ていたからわかる。でも相手が望んでるだけの気持ちは直は持ってないと思うよ。」 「……どういうこと?」  好きが尊敬、中学生の恋、相手が望んでるだけの気持ちがない…。俺にはピンと来なかった。秋鷹は再度しばらく考えた後、口を開く。 「直は相手のことをセックスの対象して見れるのか?」 「え?」  せっくす…?急な話の展開に唖然としていると、秋鷹は困った顔をして、顔をぽりぽりと指で掻いた。 「相手の人が意識してほしいって言ったって事は、男として見てほしいってことだ。セックス対象として見てくれってことだろ。」 「……あ……。」 「直の気持ちは否定しない。多分少なからずその人のこと好きだとは思う。でも向こうはそういう対象でお前を見てるって事だよ。セックスできるかできないか考えてみたか?」 「……………考えてない。」  七瀬さんが言っていた意識してほしいとはそういう事だったのか。俺は自分で思ってるよりも、意識してほしいという意味を漠然と捉えていたことに気づいた。  七瀬さんとセックス…。身体を繋げるってことだ。男同士でどうやって繋げるんだろう。男同士でセックスって出来るのだろうか。女の人ともしたことない俺にとっては、未知の領域すぎて、裸で抱き合うぐらいのふわふわとした想像しかできない。   「まずはそれ考えなきゃ駄目だろ。もし直が相手の気持ちに応えたとして、セックス出来ないんじゃ傷つけるし、応えることが出来なかったお前も傷つく。」 「………うん。」 「男が恋愛対象かわからないって言ってたが、それもセックス出来るか出来ないかじゃないか?友達と恋人の差なんて、肉欲があるかないかだろ。相手想像してしてみろ。うまく想像出来ないなら、彼女いた時あるんだし、彼女とのセックスに相手当てはめてみるとか、ゲイビ見るとかしてみたらいい。」 「………うん。」  七瀬さんに告白されて、今日秋鷹に会うまで、俺なりに七瀬さんと付き合うとことを考えていた。付き合ったら毎日メッセージを送りあったり、毎週火曜日一緒に過ごしたり、キスをしたり。キスを想像したときは、胸が高鳴り、してほしいとも思ったのだ。でもこの気持ちは恋とは違うかもしれないという、不安を払拭したくて秋鷹と会った。でも秋鷹と話して俺は現実を見せられた気がした。 「そんな落ち込んだ顔すんな。」 「あ、ごめん。」 「言っとくが俺の話は一意見だからな。俺はゲイでもないし、納得出来ないなら、否定していい。お前は誰の意見も素直に受け入れるのはいいところだが、他人の意見に流されやすいし、ちゃんと自分で納得できるように考えろ。」 「…うん、納得した。よく考えるよ。」  秋鷹は俺の返答にやや不満そうな顔をしたが、何も言わなかった。

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