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第50話 side 七瀬

 先週告白をして、まさか今週、風間君の家に行くとは思っていなかった。部屋に呼ぶと言うことは襲われるかもしれないという危険があることを理解しているのだろうか。嫌がることはしたくないので、実行はしないが。…まあ風間君の事だ。俺が襲うとは思いもせず、この前行きたいと言ったから、招待してくれているんだろう。    10時に食堂前で待ち合わせをした。俺が来た少し後に、小走りで向かってくる。 「七瀬さん!すみません。お待たせして。」 「俺もさっき来たところだから大丈夫だよ。」  風間君、この前会ったときよりも表情が硬かった。告白をしてから、まともに会うのは今日が初めてなので仕方ないだろう。意識してほしいと言ったのは俺のほうだ。こうやって会うのを避けずにいてくれるだけでもいい。    しかし、少し頬を赤らめて緊張している姿も可愛いな。小動物みたいだ。パステルカラーのポロシャツがよく似合っている。 「俺んちこっちです。」  風間君は来た道を歩いて行こうとする。 「えっ、風間君待って。」 映画を観る予定なのに映画を借りてもいないし、DVDを借りるついでに、買い物でもすると思い、俺は手ぶらで来ていた。 「どうしました?」 「俺、何も買ってないんだ。DVD借りる時に飲み物とか、ご飯とか買っていく?それとも映画見終わったら外出かける?」 「あっ、大丈夫です。DVDはメッセージでやりとりしていた映画を借りてます。飲み物もご飯も冷蔵庫にありますよ。」 「えっ。全部用意してくれてるの?」 「はい。準備満タンです。」  今日の天気のようにカラッとした笑顔を向けられ、呆気にとられた。まさか全部用意していたとは。 「行きましょう。」と言って、俺の前を歩く風間君の後ろ姿を見ていたら、徐々に胸が温かくなった。俺のために事前に時間をかけてくれたと思うとそれだけで結構嬉しいものだ。俺はにやけた顔が落ち着くのを待ってから、風間君の隣を歩いた。    程なくして、風間君の家に着いた。クリーム色の外観で、2階建で計10部屋ある。そんなに古くはなさそうだ。風間君が1階の手前から3つ目の扉を開く。緊張した面持ちで「どうぞ。」と俺を招き入れる。    「お邪魔します。」 「はい。」  先入観から、結構部屋が汚れているだろうと思い中を見渡すと、いい意味で期待を裏切られた。 数足の靴は端に綺麗に並べられ、床には物が散乱していない。ゴミも種類別に端っこに置かれている。部屋を仕切る扉は開けられており、奥の部屋も布団が端に畳まれており、服は衣装ケースに収まっている。 「部屋綺麗だね。」 「…!頑張りました!」 「ふはっ、頑張ってくれたんだ?」  風間君が食い気味で答えたので俺は思わず笑ってしまった。掃除してくれたのも俺のためだろうか?普段の散らかった部屋も見てみたい気もしていたが、健気な行動は微笑ましい。   「こちらにどうぞ。座ってください。」  奥へ案内され、風間君がクッションを持ってきた。テレビと真向かいになる位置に腰を下ろす。座椅子が1つあるが、風間君が普段使っているのだろう。渡されたクッションはふわふわでまだ買って間もない感触がした。固い感触が手に触れ、見てみるとクッションにタグがつけっぱなしになっており、俺は思わず吹き出してしまう。せっかく買ってくれているんだから、笑うのは悪いと思い、慌てて口を手で押さえる。手前の部屋でコップを用意している風間君には聞こえなかったようだった。準備満タンと言いつつ、タグを切り忘れるところも愛らしい。 「飲み物何がいいですか?緑茶、オレンジジュース、アップルジュース、紅茶、炭酸、ビールもあります!」 「すごい品揃えだね。」  すごい。こんなに至れりつくせりは初めてだ。年下に全部用意されるのは、年上として落ち着かない気持ちもあるが、風間君みたいに楽しそうに準備してくれていると、嬉しさのほうが勝る。     「七瀬さんお茶です!どうぞ。」 「ありがとう。」  俺が緑茶を頼むと、風間君は2つ緑茶の入ったコップを持ってきた。少し飲んで喉を潤す。すると、斜め前に座った風間君はぐいっと一気にお茶を飲んで、ぷはっと息を吐く。 「…喉乾いてたの?」  すごい勢いでなくなったコップと風間君を交互に見た。 「乾いてました…っ。ちょ、ちょっと緊張してて。」  風間君の部屋なのに所在なさげに、正座をして落ち着きがない。俺がいることで緊張しているんだろう。 「じゃあ早速映画見ようか?調べたら結構笑えておすすめって書いてあったから。」  映画なら、緊張して話せなくても大丈夫だし、気が逸れるはずだ。意識はしてほしいが緊張されっぱなしはお互いにきつい。   「あっ!ま、待って下さい……!」  突如大きな声で言われ、びっくりする。風間君はぷるぷると顔を赤くして震えている。どうしたのだろう。会った中で一番緊張しているようだ。部屋には来たが、とって食ったりするつもりもないし、嫌がることもしないつもりだ。 「大丈夫……?」 「はいっ!あ、あの…!」  顔を赤らめ、潤んだ瞳で見つめられ、思わず生唾を飲み込む。不意にこんな顔をしないでほしい。2人きりという環境だけでも我慢が必要なのに、自制が効かなくなる。嫌がる事はしないと今思ったばっかりだ。先週のような突発的な行動をしないよう、落ち着け落ち着け…と心の中で唱えながら、言葉の途中で黙ってしまった風間君が話し出すのをじっと待った。 「七瀬さん…っ!」 「はい。」  意を決したような表情の風間君。 「この前の…っ、こ、告白の返事をしたくて…!」 「え」  今?もう?告白をして一週間。そして風間君の家に来て、約5分。告白の返事をされるとは露程(つゆほど)にも思っておらず俺は驚いて、固まってしまう。   「七瀬さんと、お付き合いしたいです…!よろしくお願いします!」    ばっと頭を下げ、俺に土下座をしている風間君を俺は急展開についていけず、しばし無言で見つめた。
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