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第51話 ✳︎

 七瀬さんが黙ってしまい、2人の間で沈黙が落ちる。不安になり、おずおずと顔を上げると、困ったような、驚いているような、うまく表現できない顔をしていた。喜んでくれるんじゃないかと想像していた俺は、内心動揺してしまう。   「あ、ごめん。びっくりして固まっちゃった。」    先週の悲しそうな七瀬さんの顔を思い出すと、早く返事をしたいと思って今言ったのだが、唐突すぎたようだ。   「すみません…っ。早く返事しなくちゃって思って…」 「ううん。謝らないで。」  七瀬さんはふるふると頭を横に振り、笑っているものの、まだ困った顔のままだった。 「それは……、恋人として付き合うという意味で合ってるのかな?」   「え、あ、はいっ。合ってます。」    ちゃんとそのつもりで言ったのだ。間違ってない。   「……俺のこと、男として意識して欲しいから、アピールするよって前言ったけど、恋人になったら俺、我慢出来ずに手出ると思うよ。大丈夫…?」    1つ1つ確認していく七瀬さん。嬉しいとかじゃない、不安そうな顔で確認する七瀬さんを見て、俺の気持ちがちゃんと伝わってないことがわかった。   「大丈夫です…っ。俺はちゃんと七瀬さんを男として意識してます!え、エロい動画で男同士でもイけましたし、七瀬さん想像してもイけました!」    七瀬さんは目を見開き、さらに固まってしまった。あれ…。どうしよう。言葉じゃ足りないのかもしれない。ちゃんと好きだって伝えたいのに……。    俺は一生懸命考えて、行動で示したらいいと考えついた。    恥ずかしいけれど、ちゃんと七瀬さんにわかって欲しい。俺は七瀬さんのことが好きだって。男として意識してるって。    俺はゆっくりと七瀬さんに近づき、肩に手を置く。固まっている七瀬さんと目が合った。瞳は困惑を語っていた。    俺は目を閉じ、七瀬さんの唇へ自分の唇を合わせる。    数秒の沈黙が流れるが、七瀬さんは反応してくれない。反応がないことに、不安や困惑、焦燥にかられていく。    俺はもう一度キスをした。今度は少し長めに唇を当てる。七瀬さんの唇はほんのり温かくて、弾力がある。久しぶりにしたけれど、キスの感触が気持ちいい。俺はその後も何度か唇をついばむ。    七瀬さんの反応がそれでもなくて、俺は悲しくなってきた。なんだか気持ちが一方通行みたいだ。そっと目を開け、七瀬さんを見る。先程とは違う強い目線とかち合う。   「七瀬さん…、好きです。」    何も言ってくれない七瀬さんを見ていると涙が出そうになってきた。何か言って。反応してほしい。    するとぐっと顔を手で固定され、七瀬さんの唇が重なる。   「んっ」    視界が七瀬さんの顔でいっぱいになる。びっくりしたが、七瀬さんからキスをしてくれたことに身体が嬉しさで震えた。顎に七瀬さんの手が伸びてきて、指で顎を押されると自然と口が開いてしまう。すると、にゅるっと口腔内に舌が入ってきた。   「んっ!んあ」    初めての深いキスに身体が跳ねる。七瀬さんは俺の腰に腕を回し、ぐっと引き寄せてきた。さらに唇が隙間なく重なり合い、中で舌が動く。   「ふ…ぅ……っ」    歯をぞろりと舐められたり、口蓋や舌の裏をゆっくりと這うようにされると、身体がぞくぞくとした。息継ぎが難しく、ふっふっと息が乱れる。七瀬さんの吐息に混じり、唾液の絡まる音が空間を支配する。    (…やばい。気持ちいい…。キスってこんなにすごいんだ…。)    くらくらとしながら、俺も七瀬さんを真似して、舌を絡ませていく。すると七瀬さんの手がキスをしながら、背中や腹、胸板を服の下から触り始めた。病院に行ったときぐらいしか他人に触られたことのない場所に身体がビクつく。   「はっ……あぅ…っ」    キスの雨も降り続き、じぃん…と徐々に下腹部に熱が集まっていくのを感じる。    (わっ……!やばい、なんか勃ってきてるかも…!)   履いていたズボンは厚めの生地なので、見た目からはわからないが、こうやって密着していると、多分バレてしまう。あわあわと内心焦りながら、七瀬さんに気づかれないように、少しずつ腰を引いていく。 すると、身体を触っていた七瀬さんの手が、熱が溜まりつつある俺の下腹部へ伸びてきて、スッと撫でられる。 「あっ!」 俺は思わず声をあげてしまった。今触られた。俺が勃ってるって七瀬さんに気づかれた。恥ずかしい。 七瀬さんは、さわさわと確認するようにズボンの上を触ってくる。俺は初めて他人から撫でられているという羞恥で敏感になり、ビクビクと身体が跳ねてしまう。ゆっくり唇が離れていったかと思うと、耳元で囁かれた。 「キスで勃っちゃったんだ…?」 七瀬さんの吐息交じりの声を聴くと胸は高鳴り、心臓からドクドクと血液が巡り、下腹部に更に血が集まっていくのを感じた。  

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