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第55話
今日の夜勤は店長とだった。お客さんも少なく、いつものように業務をしていたら、商品の品出しをしていた店長の身体がグラっと傾き、危うく倒れそうになったのを見かける。
「根津店長…!だ、大丈夫ですか?!」
幸いお客さんはいないので、フライヤーの掃除をやめて、店長に駆け寄る。座り込んでいた店長はゆっくりと顔を上げた。
「…ごめん。フラついた。」
元々顔色はいい方ではなかったが、今日は隈も酷くて、顔は蒼白だ。バイト始まる前に大丈夫か声をかけたら、大丈夫と返ってきたのでそれ以上聞けずにいたのだ。
「店長具合悪いんじゃないですか…?」
「……実は昼シフトの人が急に辞めてね。大学の試験と被ってるから、代わりに出てくれる人がいなくて。ここ2日間あんまり眠れてないんだ。」
だからそんなに顔色が悪かったんだ。試験なら一時的な人数不足としても、長時間、連日働きづめならキツくてたまらないだろう。
「品出ししながら清掃出来ますので店長は裏で休んでて下さい。どうしても回らなかったら呼ばせてもらうので。」
「……ごめん。…ありがとう。」
店長がスタッフルームに入ったのを確認して、在庫確認をしながら補充や品出し、清掃をする。24時を過ぎると納品が次々ときて、俺は追われるように仕事をこなしていった。
店長が申し訳なさそうに1時間後に表に出てきたが、まだ顔色は悪く、倒れそうだったため、ゆっくり休んで下さいともう一度店長を裏に戻した。その日は幸いお客さんも少なく、自分のペースで仕事ができ、朝5時に店長が少し顔色を良くして戻ってきた。
「本当にありがとう。風間君のおかげで休むことが出来た。」
「いえ、今日は丁度お客さんも少なかったので仕事しやすかったです。試験期間早く過ぎるといいですね。」
「ん…、でも昼間働いてる主婦がもう1人辞めそうでね。先の事考えると憂鬱で仕方がない。」
「え……、それはキツいですね…。」
更にもう1人辞めたら今の人数で回るのだろうか?すごく大変になるんじゃないかな。新しい人なかなか入らないし、その負担が店長にいくと思うと、また倒れるんじゃないかと不安になる。
「ごめん、こんな事言って。じゃあもう少しよろしくお願いします。」
「…はい。無理はされないで下さい。」
細い店長の後ろ姿は疲れが滲み出ていた。
数日後、昼間働いていた主婦が本当に辞めてしまい、店長の顔色はそれを機にますます悪くなっていった。
根津店長のコンビニの勤務は6〜9時までの早朝シフト、9時〜17時までの日中シフト、17時〜22時までの夜シフト、そして俺が働く22時〜6時までの夜勤シフトとなっている。
本間君、財前君、店長と俺の4人で夜勤を回しているが、旅行好きの財前君と俺がフルで週5日、本間君は大学もあるので週2日、そして店長が残りの週2日入っている。
店長の勤務を聞いてみると激務だった。人数が不足している早朝シフトは毎日出勤し、週2回の夜勤、週3回の夜シフト。そして、今は辞めた2人の穴埋めのために週5日でシフトに入っている。体調不良で休んだスタッフの代わりがいない時もイレギュラーで入るので丸一日休みの日はもう数ヶ月はないとのことだった。
「店長休んでいいですよ。必要な時は呼びます。」
週5日で夜勤に入る俺は、店長と一緒の夜勤が週に1〜2回は基本ある。
俺は店長と一緒の夜勤になった時、仕事が立て込んでいない時に休んでもらうように声をかけるようになった。徐々にやつれていく姿を見ていると、何だか昔の自分と重なってしまい、出来る範囲で助けたくなったのだ。
「風間君のおかげで本当、すごく助かってます…。ありがとう。」
深く頭を下げられて逆に申し訳なくなる。奥に消えていく店長の姿を見送り、業務に戻る。今日は土曜日で夜でもお客さんが多い。レジで待たせないように注意しながら、合間合間に品出し等を行っていく。
ピロピローン
お客さんが来たようだ。入ってきたお客さんをチラリと見ると、ここ数日来てくれている男性のお客さんだった。
ばっちりと目が合ってしまい、会釈する。
コンビニなのでそんなにお客さんの滞在時間は長くないが、このお客さんは雑誌を見たり、商品を見たりと20分は滞在する。いつレジに行くかわからないので、時々様子を確認していた。
20分程してレジに向かっていったので、俺も急いでレジに向かう。
今日はチロルチョコが5種類と週刊雑誌1冊、オレンジジュースが1本だった。ピッピッとバーコードを読み取る音が鳴る。
「……風間君。」
目の前のお客さんから不意に名前を呼ばれ、顔を上げる。細い身体だが高身長で少し見上げる形になる。前髪が目に少しかかって見えにくいが、髪の間から俺の顔をジッと見つめている瞳とかち合う。近くで目を合わせると居心地の悪さを感じ、目を逸らしたくなったが、失礼にあたるので、ぐっと我慢し返事をする。
「はい。どうされました?」
名前は名札があるのでお客さんから呼ばれることは何度かあるがこの目は不安を掻き立てる。クレームかもしれないと身を構えるも、10秒程待っても次に続く言葉は出てこなかった。おずおずとレジを再開し会計する。
「……また、連絡するね。」
お釣りを渡し終え、帰り際にぽつりと言葉を残していった。
「え……?」
連絡ってなんのことだろうと疑問に思いながらも、男の人が帰ったと同時に商品を積んだトラックがやってきて、俺はその疑問を記憶の端に押しこみ、また仕事を再開した。
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