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第66話 ✳︎
トントントン……
リズミカルな音が聞こえ、とても美味しそうな匂いが漂ってきている。
「………あれ?」
目を開けて音のした方に目を向けると、キッチンに立っている七瀬さんが見えた。包丁を持った腕が心地よい音と共に動いている。
(昨日は七瀬さんと話して、それから……ああっ!)
昨夜の事が走馬灯のように思い出され、俺は顔が熱くなった。そうだ。昨日はエッチな事をしたいと言われて、本当にエッチな事をしちゃったんだ…。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「あっ…、ふ、んぁ…」
歯茎や口蓋、口腔内を隈なく舐められるような濃厚なキスをしながら、先程から刺激されて立ち上がった乳首を強弱をつけて弄られている。弱い刺激の時は腰の奥がムズムズと動くような焦ったさで、疼きを我慢していると強く摘むように乳首を触られ、自分のモノがむくりと頭を上げて反応を示す。
「ああっ、…だ、ダメぇ…っ」
「だめなの…?気持ち良くない?」
「…気持ち、良くて…っ、変に、なりそう…でっ」
「じゃあ続けるね。」
「えっ、…んんっ、あっ」
唇が離れていくと、身体のあちこちにも沢山キスが降ってきた。皮膚をキツく吸われると、鬱血して赤くなり、七瀬さんの口で色付けられたと思うとその痕が卑猥に感じてしまう。
俺の身体は痛いぐらいの刺激の方が気持ちいいと感じるようで、七瀬さんは胸や肩、太腿などを痛すぎない力で噛んできた。その度に嬌声を上げてしまい、歯型が肌に薄く跡となって残る。
「噛むの、俺の方が癖になりそう…。」
「んあっ!…あっ、ん、ん」
いつもゆっくりと快感を引き出されるような触り方なのに、今日は肉食獣が草食動物を捕食しているような激しさで、俺はいつになく気持ち良さが増していた。
ベッドの下に閉まってあった箱の中から、七瀬さんはローションとゴムを取り出し、キスや愛撫をしながら、俺の蕾に指を入れて動かし始める。
「あっ、七瀬さん、待って…。まだ中綺麗にしてない…っ。」
エッチな雰囲気になると、俺はお風呂場を借りて、七瀬さんが見せてくれたサイトのように中を綺麗に洗ったり、事前に家でも綺麗にして来たりしていたが今日は何もしていない。
「…そっか。でも大丈夫、指だけだから。」
「え…、指だけ…?」
七瀬さんから激しく求めてくれて、俺は今日こそ身体を繋げると思っていたのに、今までと同じように指だけしか挿れないのだろうか。でもせっかく本当の気持ちもわかって、気持ちも近づいたのだ。
「俺…、今日は挿れて欲しいです…。」
「俺も繋がりたいけど…、ちょっと我慢出来そうにないから素股してもいい?」
「す…また?」
「うん。で、一回出したらお風呂で綺麗にして繋がろうか…?」
「……はい。」
素股がよくわからないけど、お風呂の後に繋がれると聞いて気持ちが温かくなる。俺の蕾の中を指である部分を擦るように触られると、ゾクゾクと快感を拾い、俺のモノからトロリと透明の液が垂れてくる。
「あ、あ、あっ」
「可愛い…。ここね、風間君の気持ち良いところ。後でいっぱい擦ってあげるから。」
今も擦られてるのに、後でって事は七瀬さんのモノでって事だろうか。想像するだけで気持ちが高ぶり、期待で身体は敏感になる。前も一緒に刺激され、俺は堪らなくなってきた。
「ああっ、出、ちゃうっ…。」
「まだ駄目。」
「あ、あっ、えっ…、何で…っ?」
ギュッと根元を握られ、出そうと思っていた精液が行き場をなくしてしまい、腰がムズムズとした。イきたかったのに、何で止めてしまうのだろう。手を離されても、タイミングを逃してしまった俺のモノはフルフルと震えているだけで、イクことが出来ない。
七瀬さんを見ると、頭元においていたローションを追加して、七瀬さんのモノにたっぷりと塗っている。
「風間君、四つん這いになって。」
「え、四つん這いですか…?」
「うん。一緒に気持ちよくなろう。」
裸で四つん這いになるなんて恥ずかしかったが、おずおずと体勢を変えていく。
「……こうですか…?」
「……うん。可愛い。」
七瀬さんにお尻を向けると、七瀬さんのモノが俺の陰嚢の裏に触れてきた。そして俺に覆いかぶさるような体勢になり、腰を動かすと、グチュ、クチュと卑猥な音が聞こえきて、俺の陰茎にも触れる。ローションの滑りでモノ同士が当たると擦られるようにじんわりと快感が戻ってくる。
「…風間君、太腿に力入られる?」
「こう…ですか…?」
「ん…、上手…。」
内側に締めるように力を入れると、七瀬さんのモノが俺の間で動いているのがよくわかった。七瀬さん吐息がすぐ近くで聞こえてくる。すると、俺のモノと乳首を同時に責められ、俺は嬌声を上げてしまう。
「はっ……、ん、んっ」
「気持ち良い…?」
「あっ、あ、気持ち、いい…っ」
「な、なせさん、は…気持ちい?んっん、」
「うん…、気持ち良いよ。」
ちらりと後ろを振り向くと、少し眉間に皺を寄せて、腰を動かしている七瀬さんを捉えた。AVで見たアングルと重なり、この素股というのはすごくセックスに近い体勢なんだとドキドキして、無意識に蕾がヒクヒクと動いた。
「…っ、そろそろイっていい…?」
そう言うと腰の動きが一層速くなり、俺のモノ包み込むように持った手も速く動く。
「は、あっ、んんっ…、出る、出ます…っ!」
「……俺も、……っ」
「んあっ、ああ……っ!」
吐精すると、身体の力がフッと抜け、お尻を高く突き出したまま、俺は顔をベッドに埋めた。ローションなのか精液なのかわからないが大腿の内側をつたう。息を整えて、身体を反転させられ向き合とキスで気持ちを紡ぎ合う。
「…ん。風間君、お風呂入ろっか?」
「……っあ、はい…。」
布団は七瀬さんの匂いでいっぱいですごく落ち着き、射精後の脱力感から身体はこのままベッドで寝たい欲求が出てきた。瞼が勝手に閉じようとする。
「疲れちゃった…?」
「あ…、すみません…。昨日眠れてなくて…。ホッとしたから気が抜けたのかもしれないです…。」
「そっか……、じゃあ今日はこのまま休もうか?」
「え……でも今日は……。」
今日こそ繋がれると思っていたのに、そう言われてる悲しくなる。
「俺も繋がりたいけど、今は指1本分しか後ろ解してないから、すごく時間かかると思うんだ。それに今は風間君家に帰りにくいでしょ?俺の家にずっといていいから。そしたらいつでも出来る…。ね?」
「…七瀬さんの家にお邪魔してていいんですか…?」
「うん。大歓迎だよ。そのままずっと一緒に暮らしてもいいけどね。」
「七瀬さん……。」
甘い舌を絡めるキスをされると気持ちが高ぶり、また少し泣いてしまった。今日は泣き虫さんだねと言って、頭をゆっくりと撫でられると、心地の良い気持ちが満たしていく。
俺は重たくなる瞼に耐えられず、そのまま目を閉じてしまった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
昨日の事を思い出していると、机の上にご飯茶碗が置かれた。
「あ、起きた?」
「な、七瀬さんっ…。おはようございます。」
「うん、おはよう。ご飯出来たから起こそうと思ってたんだ。食べれそう?」
「はい。ありがとうございます…わわっ」
起きて布団を捲ると、俺は全裸のままだったことに気づき、すぐに布団で隠すと「ベッドの横に服があるから着てね」と七瀬さんが笑いながら言ってくれた。こんな朝に自分だけ全裸なのが恥ずかしくて、素早く着替えて食卓が並べられた机の前にいく。
テーブルの上には白米、大根の味噌汁、焼き鮭、納豆が並んでいる。
「すごく美味しそうです。いただいます。」
「ありがとう。いただいます。」
味噌汁を一口啜ると出汁と味噌の香りを感じた。鳩尾の部分が温かくなり、身体を中から温めていく。朝が大分冷えるようになって温かいものは美味しさを増し身体に染み渡っていく。
「美味しい……。」
「よかった。」
夢中で食事を進めて食べ終わり、お茶を飲んでいると昨夜の話の続きをすることになった。
「秋鷹君と話して、今日バイト行った時に店長に常連さんの事言うんだね。」
「はい、そしたらバイト中は大丈夫なので。」
(秋鷹……、何か忘れてるような……。あっ!そうだった!)
「七瀬さんお話中すみません。秋鷹に連絡くれって言われてたんです。連絡しても良いですか…?」
「うんいいよ。心配だろうしね。」
「ありがとうございます。」
携帯を確認すると今日の朝に秋鷹からのメッセージがあり、そして昨日の夜遅くに但馬先輩からも来ていた。それぞれメッセージに目を通す。
秋鷹『七瀬さんと無事話せたか?また何かあったら相談していいぞ。』
但馬先輩『彼女と大丈夫か?』
秋鷹の優しさが沁みる。携帯の時計で8時42分を指しており、秋鷹は仕事に行ったかもしれないと思いつつ、一応電話を入れてみるが、案の定不在着信になった。俺は七瀬さんじゃなかった旨のメッセージだけを残す。そして但馬先輩には『ご心配おかけしました。大丈夫でした。』と送って携帯を机の上に置く。
「電話は仕事で出れないみたいで、メッセージ残しました。」
「そっか…。俺も仕込みとかあって、9時過ぎにはここを出るから、ギリギリまで解決策を話そう。」
「はい。ありがとうございます。」
「まずは常連の事だけど、つけてきたって事は今後もその可能性があるから、行き帰り1人は危ないね。」
「そうですよね…。」
「風間君のバイト22時始まりの6時終わりで合ってる?」
「はい、そうです。」
「それなら俺送り迎え出来るから一緒に帰ろうか。」
「えっ、でも……。いいんですか…?」
秋鷹に言われて、送り迎え七瀬さんに頼めたらいいなと思っていたので助かる提案だった。でも仕事の前と後に送り迎え負担になりそうで申し訳ない。
「全然大丈夫。じゃあ今日はこのまま俺の家にいて、バイトの時間になったら車で送るよ。」
「ありがとうございます…っ。」
深めに頭を下げ、七瀬さんに感謝の意を伝える。下げた頭をポンポンと撫でられた。
「遠慮しないでね?そっちの方が悲しいから。」
「はい…。嬉しいです…。」
「あと、ICレコーダーはいいと思う。秋鷹君も一緒に話すって事だったけど、俺も話聞きたいんだ。いい?」
「はい。是非お願いします。じゃあ…ICレコーダー届いたらみんなが大丈夫な時間を決めるって感じでいいですか?」
「うん。そうしようか。」
秋鷹も七瀬さんもいると思うと、とても力強くて俺は常連さんの怖い気持ちが薄れていくのを感じた。
「じゃあ次は監視アプリに話を移そうか。風間君は、俺以外に監視アプリ入れそうな人いないのかな?」
「……監視アプリ入れそうな人……。」
(あ……、そうか。七瀬さんじゃなかったから、他の誰かが入れたって事になるんだ…。)
昨日は七瀬さんの事でいっぱいいっぱいだったけど、よく考えたら他の誰かが入れたんだ。それに気づいて急に怖くなった。身体が強張ったのを気づいてくれたのか、七瀬さんが頭をそっと撫でてくれる。
「大丈夫。ゆっくり考えて。」
「……はい。」
俺の携帯に触れて、監視したい人……。少しの間思案して、1人顔が思い浮かんだ。
「兄とか……。」
「お兄さん?」
「はい。」
兄なら俺の携帯に触れるし、食事が取れていない時に毎日会いに来ると言ったぐらい心配性なので、可能性はあると思った。
「じゃあお兄さんに確認してみようか?」
「…そうですね。電話してみます。」
今日は土曜日なので兄は仕事が休みでこの時間でも連絡は取れるだろう。電話を掛けると2コール目で兄の声が聞こえた。
『どうした?』
「あ、兄さん。おはよう。」
『ああ、おはよう。電話なんて珍しいな?何かあったのか?』
「あ……、えっとね。聞きたい事があって。」
『何だ?』
「あのさ……、」
監視アプリと言おうと思ってふと、兄じゃなかったとき大変な事になると思い頭をフル回転させる。
「え、えっと………兄さん、俺の携帯触ったりした?」
『………直の携帯?触ってはないが、何でそんな事わざわざ聞くんだ?』
兄さんの声が低くなった気がして俺は慌ててフォローする。
「あっ!いや!違うならいいんだ。とりあえず聞いておこうって思っただけだから。気にしないで。」
『携帯がおかしくなったのか?何かあったのか?』
「いや、あ!そう、そうなんだ。何か調子悪くて。ははは…。じゃあ切るね。」
『ちょっと待て。電話じゃ意味がよくわからない。今から家に向かうから話を聞かせてくれ。』
「えっ!いやいや!今家にいないよ!」
『そうなのか?じゃあどこにいるんだ。』
「今は七瀬さんの所に…」
『七瀬さん?誰だそれは?』
「えっと…、近くの食堂の店主さんだよ。ほら!前食事の写真撮ってたでしょ?そこの食堂の人!」
『ああ…そういえば毎日通ってたな。』
家に来ようとする兄を何とか留めて電話を切る事ができた。俺はどっと疲れがきて、長めに息を吐く。
「……お兄さんじゃなかったね。」
「あ……はい。」
「もう他に思いつく人はいないかな?」
「他ですか……。」
そうだ。疲れてる場合じゃない。兄さんじゃなかったら他に誰か心当たりがないか考えないと…。
そういえば秋鷹がハヤナの人怪しいって言ってたな。ハヤナの人…、会ってるのは但馬先輩だけだし、他に誰かいるかな…。知らない間に会ってたりするのかな。俺あんまり携帯持ち歩かないし、その間で知らないうちに入れられたりしたのだろうか?あ、但馬先輩なら一緒に飲んだこともあるし、携帯触れれる…。でも但馬先輩は監視アプリ見つけてくれた人だし、もし入れたとしても普通自分から言わないよね…。知らない間に会って、知らない間に携帯に触れる可能性があるかもしれないと思うとふと、常連さんの顔が思い浮かんだ。俺の知らないメッセージのやり取りをしているし、俺が気づいていないだけで携帯に触れる機会があったかもしれない。しかも家にまで付いてきたのも怪しく感じる。
「常連さんとか……。」
「……それは……。そうだね。可能性はあるかもしれない…。風間君と何故かやり取りしてることになってるし、携帯情報を見れるなら、やり取りしてるって勘違いすることもあるかもしれないし。」
「………っ。」
七瀬さんが言った事が当たってそうで怖くなり、身体がぶるりと震えた。七瀬さんがそっと抱きしめてくれる。
「怖いよね…。でも俺がいるし、秋鷹君もいる。ここなら来ないから。」
「……はい。」
俺も縋り付くように腕に力を入れて、七瀬さんに抱きついた。
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