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第69話 11:24✳︎✳︎
但馬先輩に背負われながら帰路していると何故か徐々に身体が熱くなってきているのを感じていた。歩いてないのに軽度の動悸と息上がり、揺れる度に先輩の腰と俺の股の中心部が擦れて、じわじわと身体の内部に火が燻っているような感覚を覚える。
(……何だろう…。身体が熱い…?)
その熱は気持ちよさを感じる時の熱と似ていて、モノが擦れる度に中心に熱が集まってくる。ただおんぶされているだけなのに、自分の身体が性的興奮を拾っているようだ。何でだろう。おんぶされた事なんて大人になってから一度もないけれど、気持ちよくなるなんておかしいんじゃないだろうか?自身の身体の反応に意味も分からず混乱し、熱を抑えようと意識を逸らしたりしてみたが効果はなく、身体がゆっくり変化していく。このままではヤバいと慌てて先輩に声をかける。
「但馬先輩…っ、もう歩けそうです…!」
「え?気使うなよ。もう少しで着くから背負われとけ。」
「え、いやっ、ほ、本当に大丈夫なので…!」
「……そうか?」
「はいっ。」
「そこまで言うなら、ほら。」
「ありがとうございます…。」
ゆっくりと地面に降ろされ、足を着ける。歩けるか不安だったが恐怖心は去っていて、歩く事ができた。
(ズボンの上からならバレてないよね…?)
下半身の違和感はあるものの、ズボンと長めの白いTシャツを着ていたのでぱっと見はわからないと思う。……わからないでほしい。わかられたら何も言い訳が思い浮かばない。先輩に気持ち悪がられるかもしれない。
「先輩…、俺もう大丈夫なんで…。折角の休みでしょうし、プレゼントも買わなくちゃいけないだろうし…」
家まで送ってもらっているのに失礼だとは重々承知であったが、このままだと俺は痴態を晒してしまう気がしたのでやんわり帰って欲しいことを伝えてみた。
「俺は風間が心配だ。落ち着くまで一緒にいるよ。俺の事はいいから。」
「……そうですか。ありがとうございます…。」
先輩の優しさに胸が痛む。今の様子じゃ気づいている様子もないし、これ以上熱いのが酷くならなければ、多分大丈夫だろう…。不安も覚えながらも、優しさを蔑ろには出来ず、しばらく歩いて俺の家に着いた。
(…そういえば前も気分悪くなった時に送ってもらったことがあったな。先輩と話すの苦手、会いたくないとか思ってしまった事もあったけど、こうやって助けてもらって…、感謝しかないな。それなのに俺は会うの嫌がったりして……、嫌な奴だ…。)
自己嫌悪に陥りながらも、飲み物を用意して先輩に持っていった。
「ありがと。どうだ?気分は悪くないか?」
「…はい。大丈夫です。」
吐ききったのか気持ち悪さはなかった。身体の火照りが何故あるのかわからないが、色々あった所為でビックリしんじゃないかと推測している。とりあえず先輩とは対面に座っている為、机の影になって下半身は目につきにくい。そう思うと安心し、緊張を緩めた。但馬先輩はお茶で喉を潤して俺に目線を向けてくる。
「…ってか本当、風間に何もなくて良かったわ。」
「……ですね。本当に但馬先輩がいてくれて助かりました…。ありがとうございます。」
「いいよ。でも俺が来なかったらと思うとゾッとするな…。あいつバイトがどうとか言ってたけど、ずっとストーカーされてたの?」
「あ…、えっと、最初はただの常連さんだったと思うんですけど、1度家をついてこられて…。」
「ふーん…そっかぁ。もう近づいて来ないかもしれないけど、ここの家引越したがいいかも知れないな。万が一来た時、怖いし。」
「そうですね……。考えてみます。」
常連さんは今後会わないと約束したけれど、必ず約束を守ってくれるとは限らないだろう。しかもあれだけ騒ぎになって、それでも俺に会いにくるなら、次会った時は大変なことになる可能性もある。一応解決したけれど、バイト先に来るのも0%ではないし、バイト先には言っておいたがいいかもしれない。それか、警察にも…相談したがいいかもしれない…。
「…そういえばあのストーカー、風間と連絡取ってたって言ってたな。」
「あ……、」
「あの写真…。風間が寝ている時に撮ってあったり、盗み撮りしてるような写真が多かったな。風間のフリしてる奴は、もしかしたら監視アプリ入れた奴と一緒じゃないか?」
数十分前に起きた光景が頭を巡り、ゾワッとあの何枚もあった、見に覚えのない自分の写真が思い浮かぶ。常連さんは俺と連絡取ってたって勘違いしてたみたいだけど、確かに誰かが俺のフリをしてやり取りをしていた。俺の写真もあったし、秋鷹や但馬先輩が言ってるように、誰かが俺を嵌めようとしてたって事になるんだろう。
でも……思いつかない。こんな酷いことする程、俺は憎まれる人が思いつかない。常連さんが会わないという約束を守ってくれたとしても、姿の見えない敵はこれからも何かしてくるかもしれない。どうしよう。俺、どうしたらいいんだろう。誰かわからないのにどうしようもないんじゃないだろうか。
「うぅ……。」
「……っ!どうした?」
ここ最近ダメだ。涙腺が馬鹿になってる。少しの事で人前で泣いてしまって、我慢が上手くできない。顔を隠すように、両手で顔を覆った。
「………い……。」
「……ん?」
「………怖い……っ。」
「……風間。」
秋鷹も助けてくれた。七瀬さんも助けてくれた。但馬先輩も助けてくれた。沢山の人に助けられているのに、終わらない不安と恐怖。まだ何かあるんだろうっていう予期不安。ずっと続くんだろうか。俺は無くなるまで耐えれるんだろうか。
先輩の動く気配を感じ取ると、身体を包み込むように抱き締められる。
「…っ、先輩……。」
「顔隠さなくていいから。沢山泣け。泣いてスッキリしろ。」
「ううぅ……っ」
ぽろぽろと落ちていく涙は先輩の服を濡らしていく。抱き締められる強さが心強い。守られているような、守ってくれそうな強さを肌で感じる。
「……なぁ、風間。」
「うぅ……」
「ツラいと思うが、聞いてくれないか?俺はやっぱり、風間の恋人の七瀬さんが監視をして、風間のフリをしてたと思うんだ。」
「……ぅあ…っ、何で……っ?」
「ストーカーが持ってた風間の裸の写真って決定的じゃないか?あんな写真、恋人しか撮れないだろ?」
「………っうぅ」
「あのさ……、人は嘘つける。…色々さ、周りで起き始めたのって、風間が七瀬さんと付き合い始めてからだろ…?時期も合うし、付き合い始めて間もないし、知らない部分が見えてきたんじゃないのか?」
「あ…あ……、」
先輩に言われて反論出来なかった。そして俺は、心の何処かで、得体のしれない犯人よりも、七瀬さんの方がいいって思っている自分がいる。そっちの方がいい。わからない人よりも七瀬さんなら顔が見えてる。知ってる人だから。
昨日も沢山話して、今まで我慢していたことを言ってくれたけど、俺が聞かなかったら隠したままだった。まだ秘密があるかもしれない。しかも俺のグジグジ悩んでた時も見られてるから、そんな俺が嫌いなのかもしれない。俺はハヤナでも役立たずで、人に迷惑をかけてばっかで、一人で仕事も辞めれなくて、立ち直るのも七瀬さんがいないと出来なくて。嫌な部分がいっぱいある。……人に迷惑しかかけてない。誰にも全然恩返しも出来ていないし、負担しかかけてないじゃないか。こんな俺が七瀬さんの側にはいない方がいいかもしれない……。
「……ふ、う…、は、離れたがいい…のかな…、」
「………付き合ってツラいなら、離れたがいいんじゃないか?」
「……っう、うぅ…っ」
七瀬さんと離れる事を想像したら更に涙はとめどなく流れていく。七瀬さんと離れる…、毎週火曜日に会うこともなくなって、毎日なな食堂に通うこともなくなる…。俺は何を楽しみにしていけばいいんだろう。…七瀬さんと出会う前の生活に戻るんだ。仕事に行って、家に帰ってきての往復で、時々実家に帰って…。そんな生活に戻るんだ……。
「………っだ、」
「どうした?」
「………うぅ、い、嫌だぁ……っ」
七瀬さんと出会う前の生活に戻る?もう七瀬さんと出会ってる。七瀬さんと付き合ってる。毎週出掛けて、ステンドグラス作って、お笑い見に行って、お互いの家を行き来して、エッチな事も沢山した。何も知らなかった時には戻るのはツラい…。ツラすぎる……。
「……風間。」
「…ふ……、……んっ」
不意に顔を両手で挟まれ先輩と目線が合うと、視界が先輩でいっぱいになり、唇に柔らかいものが触れた。ちゅ、ちゅ…とリップ音が聞こえて、キスをされているんだと鈍い頭でゆっくり認知し、先輩と距離を取ろうと両手で胸を押すが力敵わず身体は僅かに動くだけだった。
「せ、先輩…っ?やめてください……っ」
「なぁ、俺にしとけよ。」
「………え、」
「俺なら風間を何があっても守ってやる。……風間が好きだ。別れて、俺と付き合ってくれ。」
「………え、え、」
先輩が俺を好き…?え…、いつから?……何で俺…?先輩が俺を好きなんて考えたこともなく、いきなりの告白に頭がついていかない。
「俺が忘れさせてやるから。……な?」
「えっと……、んあっ」
先輩が俺のモノを掌で押すように触れてきた。いきなりの直接的刺激で忘れていた身体の熱さを自覚する。
「……風間、俺と触れ合って勃ってくれてるんだ?」
「え、え、いや、違…っ」
「…俺に背負われてる時も勃ってたろ…?すげぇ嬉しかった。」
「あっ…!」
そんな。バレてた。身体は熱いのに血の気が引いていく。どうしてこんな風になったのか、俺もわからないのに、説明しようがない。
「お、俺も何でこんなになったか、わからなくて…っ!」
「無意識に反応してくれてるんだ?嬉しいな。」
「え、えっと……っ!…んうっ」
え?無意識に反応?先輩に?服の上から乳首を摘まれるとビリビリとした気持ち良さが身体を巡る。え、え?何これ?何で?
「…風間好きだ……。」
先輩が覆いかぶさってきて、俺はラグの上に押し倒されてしまった。
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