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第72話 但馬side✳︎✳︎

 連絡先を渡したにも関わらず、風間からは一度も連絡がないまま時は過ぎていく。格好の獲物だった風間がいなくなり、俺はフラストレーションが溜まりながら、いきずりの相手で性欲発散して過ごしていた。  風間には会えない日々が続き、次のターゲットを誰にしようか探していた時、なんと風間は会社の清掃員として俺の元に戻ってきてくれたのだ。  久しぶりに見た顔も真っ青で震えており、俺に助けを求めて、潤んだ瞳で見上げていた。その顔を見た瞬間――俺は今までで一番の興奮を得た。  一度は諦めて去っていった獲物が再び自分の元に戻ってくる感覚。俺に助けを求めている姿。全てが新しく、輝いて見えた。  風間は俺の特別だ。  縋りつく手も、表情豊かな顔も、流れる涙も、ぐちゃぐちゃになった感情も全部、俺のために存在している。  それからは風間を俺の物にするために綿密な計画を考えた。どうやったら風間が俺なしでは生きれなくなるか。これからも、あのゾクゾクする表情を見せてくれるのか。  風間を助けた次の日、俺は早速行動に出た。居酒屋に誘い、風間が見ていない隙に酒に睡眠薬を混ぜて、風間に飲ませる。酒で味覚は馬鹿になっているから気づかれずに飲んでくれて、酒の相乗効果で薬はよく効いた。 前後不覚になった風間を送ることで住所を突き止め、よく眠っていることを確かめて服を脱がせ、いつか使えるだろうと思い、全裸の写真を何枚か撮る。そして風間の携帯はパスワードの設定もされておらず、無防備な状態だったので、簡単に監視アプリをインストールでき、行動がわかるようにした。 風間の行動はパターン化しており、バイトに行くか、なな食堂に行くか、スーパーに行くかだったが、火曜日だけは違った。ステンドグラス工房に行ったり、お笑いライブに行ったりと色んなところにで出掛けており、その相手は全て七瀬という男。飲みに行ったときには、その七瀬とかいう男を嬉しそうに話すし、俺と連絡を取ってなかった期間に助けてもらったなんて、馬鹿なことを言うもんだから、腹が立ってしょうがなかった。  だが、風間が清掃員のバイトを辞めて、次のバイトをどうするか決めかねているのを知り、根津先輩がやっているコンビニを薦めた。このコンビニは駅前にあり、客の出入りが多く、バイトが入ってもキツいとのことでよく辞めていき、万年人材不足で嘆いているのを知っており、ハヤナの社員も利用するから、バイトの辛さで、また俺を頼ってくる機会があるかもしれないと思ったのだ。  しかし風間は思いの外コンビニバイトでは弱音を吐かなかったし、楽しそうにしていた。想定外だったので、辛くなるように画策しようとしたが、そんなときに限って仕事が忙しくて手が回らなくなり、風間の行動を監視するのみで終わっていた。  仕事が落ち着き、自分の余裕が出てくると、1つのいいアイデアが思い浮かんだ。  俺は早速、監視アプリで適当に撮った風間の写真と以前家に行ったときに盗った全裸の写真を使って、風間に扮し、ゲイ向けの出会い系サイトに登録した。  平凡な顔をしているが、雰囲気が柔らかい風間は結構色んな奴から連絡が来た。その中から根暗で、粘着そうで、面倒くさそうな頭の悪い奴を選別していく。そして一人の男が残ったのは野次原で、俺は連絡を取り続けた。風間の日常的な顔や全裸、局部のアップなどを送って、性的対象として見ていることを意識させる。  野次原はどんどんのめり込むように、風間への言葉掛けも遠慮がなくなり、直接会ってもいないのに、絶対的に好かれていると勘違いしていった。  そうこうしているうちに、風間に彼女が出来てしまう。風間の彼女は優しくて、料理も上手いいい女らしい。まさかそんな早くに誰かに取られるとは思っていなかったので苛ついたが、すぐにいい考えが浮かぶ。 「監視アプリ、彼女が入れたんじゃないの?」  その言葉は効果覿面で、彼女に対しての絶対的な信頼はぐらぐらと揺らいでいく。裏切られたかもしれないという不安な顔は、ゾクゾクとした。ああ、もっと追い詰めたい……、そんな気持ちを我慢して、じわじわと白いキャンパスに黒いシミを染み込ませるように言葉を選んでいく。  そしてその時に風間が付き合ったいたのは彼女ではなく、七瀬という男だとわかった。風間は異性愛者だと思っていたので、俺にとっては朗報だった。俺に気持ちが傾けばすぐにどうにでもなる。  野次原には風間の仕事場にきて、顔を見せてもいいが、仕事を真面目にしたいので話しかけないでと言って、風間にはバレないようにした。 野次原は言われたことは約束を守るが、それ以外は自分の都合の良いように考える、頭がお花畑の奴だった。風間のことが心配で毎日家まで送っていると言われたときはヒヤリとしたが、まだ会うのは恥ずかしいなどと言って、直接の接触を避けていた。  だがある日、風間とかち合わせしたらしく話せて嬉しかったと連絡がきた時は、駒が何を勝手に動いてんだとキレそうになったが、いずれ接触をしてもらおうとは思っていたし、今は監視アプリのせいで彼女とは険悪なムードだと思うから、結果オーライだと考え直す。  今日は後輩がまあまあデカいミスをしたり、取引先から無茶を言われたりか重なり、昼飯が食えないぐらい仕事が忙しくて、結局風間に連絡出来たのは夜遅くだった。『七瀬さんとは大丈夫だったか?』に対しての返信がなく、一度電話したが出なかった。そして翌朝に大丈夫でした、との返信があり、監視アプリで彼女と別れることもなければ、野次原の事は応えていないのだなとわかってしまった。  再びどうするか思案する。今日は仕事が休みなので、風間と会って、その時に野次原がいたら、いい顔を見せてくれるんじゃないかと思いつく。  野次原に今日の予定を聞いて何もないことを確認できたので、風間に連絡する。1歳の子どもなんていないから適当に嘘ついて、風間と外で会う約束をとりつけた。 野次原に会いたいと言うと、飛びつくように返事がきた。そしてついでに随分前に頼んでいた気持ちの悪い物を持ってきて欲しいと言うと、『ホテル探しておくね』と気持ちの悪い返事がきて、風間に言ったら面白い顔しそうだなと細く微笑んだ。  そして約束の時間より少し前。風間の姿を見かけたが、柱の影に隠れて見えない位置で観察していると、野次原が近づいて風間に話しかけた。風間の顔がどんどん青白くなっていく、ああ、可愛いな。その顔のままペニスをぶち込みたい……。我慢が募ってきていたので、俺は今日使えるなら使いたいと、粉状の催淫剤を持っていたペットボトルに入れる。流れで部屋かホテルに連れ込めたら完璧だなと思いながら、連れて行かれそうなタイミングで俺は風間を助けた。  風間は俺に助けてとすがってきて、愛しさが増していく。早くヤって俺だけのものにしたい。吐いて苦しそうな姿もいいけど、快感によがってる姿も見てみたい。  催淫剤は規準より多めにつかったせいか、効果が早く現れた。俺の背中で淡く勃ってきているのを隠そうと、もじもじと腰を動かしている動作に思わず笑みが溢れる。背中に背負っててよかった、顔を見られていたら、俺の欲望に気づかれた可能性もある。感情を中に隠して、風間の家に入る。  そして七瀬がやっぱり怪しいと不安にさせたまま、俺は風間にキスをした。  さあ。俺の手の中に落ちてこい。

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