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第73話 ✳︎✳︎

「俺を……好き?」 「ああ。風間のことがずっと好きだった。お前のことを守りたい。俺と付き合ってくれ」  頬にキスをされ、胸をさわさわと触られながら但馬先輩が呟く。頭はぼーっとしているけれど、触られている場所が気持ちのいいのに混じって、ゾワゾワと肌が立つような気持ちの悪さを含んでいて、混乱した。なにこれ、反比例する気持ちが同時に起こっている。身体がおかしい。こんな訳もわからず興奮するようなことは今までなかったのに。身体に触れられた時、七瀬さんに触れられたような温かい、ふわふわとした気持ちにならない。  直感的に七瀬さんとするようなエッチなことは但馬先輩とは出来ないと思った。但馬先輩が俺を好き……付き合いたいってことはエッチをしたいんだろう。今触られているのは性的な意味を持っているんだ。 「い……いや……。」  エッチが無理なら付き合うのは無理だ。というか、俺は七瀬さんのことが好きなんだ。きつい時に助けてくれて、色んなことを疑ったけど、それでも大好きで。これからも付き合っていたいんだ。だから但馬先輩と付き合うなんて出来ない。 「……っ、但馬先輩っ。俺は、付き合えないです……っ!七瀬さんのことが好きだからっ」  但馬先輩もストーカーから助けてくれた。こうやって家まで送ってくれた。俺を心配してくれた。だけど……七瀬さんとはやっぱり違う。感謝はあるけれど、愛しい感情は出てこない。 「だから……っ、ごめんなさい。」  密着していた身体を手で押し返すが、力がうまく入らなくて殆ど間は開かなかった。但馬先輩の反応がなくて、恐る恐る先輩の顔を覗く。 「ひっ」  俺は喉が閉まった時のようなか細い声が漏れ出てしまう。但馬先輩は時々怖い顔をしていたけれど、基本的にはいつもニコニコしていて、みんなに好かれる顔をしているのに、今の表情は今まで見たこともないような顔をしている。  怒っている顔でもない。悲しんでいる顔でもない。……無表情なのに憎悪や怒り、驚き……色んな仄暗い感情が伝わってくる。目が怖くて、かち合った瞳を晒したくても晒せない。 「……なんだって?」 「ひっ」  但馬先輩の声が地を這うように低く、耳に響く。気持ち悪さで肌が立っていたが、恐怖により一層寒気を感じる。逃げたい。このままここにいてはヤバい気がする。 「た、但馬せんぱ……うぐっ!」  急に息ができなくなり、首に強い痛みを感じる。仄暗い瞳は瞳孔が開き、獲物を取り逃すまいとする鋭さが増す。首を但馬先輩の片手が締め上げ、上から乗られた体勢であったため、但馬先輩の体重で押さえられるようにぐぐぐ…と圧迫してくる。 「う……っ、ぐ…ぅ… 」 「付き合えない?俺は風間が会社で困ってる時も助けて、倒れていた時も助けた。バイト先も紹介して、今日もストーカーから守ったんだぞ?」  殺される。  緩まることない手の力に、首を絞められた経験なんてあるはずもなく、息ができないことにパニックになる。力の入らない身体をめちゃくちゃに暴れさせるが但馬先輩の手は緩まない。 「俺がどれだけお前に尽くしたんだ。どれだけ我慢したと思ってる。俺の元に自分から戻ってきておいて、最後に突き放す……?はっ、ないな。」 「はっ……、は……」  手が痺れてきた。目がチカチカする……。頭が痛い。身体が動かない……。 「お前は俺のもんだ」  駄目だ、落ちる。  七瀬さんの顔が浮かんだけれど、俺は抗えずに意識を手放した。

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