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三者面談ー4
翌日、自宅のベッドで目が醒めた湊斗は、体のあちこちが痛むことに閉口しながら何とか支度をして階下に降りた。両親はもう出かけた後らしく、テーブルの上には菓子パンが3つ置いてあった。
「……クソ。加減しろよ、あの絶倫……。体中ギシギシ言ってるじゃん。もっと痛くなくできないのかよ……っ」
かといって、最初に致した翌日、痛む体を魔力で癒やそうとしたアディに、「自分の体に魔法を掛けるな!」と怒って拒否ったのは自分なので、「痛くないようにしろ」などと言うことも憚られる。そんな事を言ったら、また怪しげな魔法を掛けられそうで、そんなのもっと怖い。
それに、昨日のは自分が悪い……ところもあったのか、と思ったりもする。
自分の愛情を疑うなど許さない……アディはそう言って怒っていた……ような気がする。
アディの愛情を疑ったことはない。だって、身に余るほどのことをして貰っている自覚なら、ありすぎるほどあるのだ。
ただ、どうしてその対象が自分なのかが分からないのだ。だってやっぱり、自分にそこまでする価値があるとは思えないじゃないか
そんなことを考えながらいつもの時間に家を出ると、いつも通り、そこにはアディが待っていた。
「……か、体は大丈夫か……?」
「……一応気にしてくれてるんだ?」
「……昨日は少し……その、激しすぎたかと思ってな……」
「分かってんなら加減しろよ」
アディの困った顔を見ると、なんだかほっとして、体の鈍い痛みを思い出す。照れ隠し半分でブツブツ文句を言うと、アディはますます困った顔をした。
その顔が面白い。魔界の公爵とかいうアディが、たかが人間の自分の機嫌を損ねることを案じて、こんな顔をするなんて。
「……まぁ、おかげでイヤなことは忘れられたから、許してやる」
そう言うと、アディの頭の上に、見えない筈の犬耳がピコピコと揺れるのが見えたような気がした。
「そうか!ありがとう、湊斗!!」
「……そんな大きな声出すなよ、恥ずかしいな!」
湊斗もアディの元でスクスクと成長し、背もずいぶん伸びた。現在の身長は176cm。アディと並ぶとずいぶん小さく見えるが、それは湊斗が小さいのではなく、アディが大きいだけだ。
「湊斗、今日は帰りに私の家に来るだろう?」
「ああ?」
「うん。それじゃあ、今日は楽しいことを用意しておくよ。楽しみにしていてくれ」
「え……何?気になるんだけど……」
「帰ってからのお楽しみだよ」
結局学校の最寄り駅に着くまで、アディがその『お楽しみ』について語ってくれることはなかった。
だから学校で、昨日の様子を気にした友人達の妙に気遣った顔や、担任からの「親御さんはどうなった」という問いにも、心が揺すぶられることはなかった。
いつもなら、自分は友達から同情される立場なのかと落ち込んだり、担任に対することで、自分の存在を顧みようとしない親という物を突きつけられ、心が塞ぎそうになるのに、今日は『帰ってからのお楽しみ』で頭の中はいっぱいだ。
アディレベルの楽しいことって何だろう。まさか、昨日の今日でえっち関係じゃないだろうし……アディの家、まだ開けてない扉がいっぱいあるから、どこかにすごい仕掛けでもしてあるのかな。それとも、魔法で何か見せてくれるとか?
っていうかそもそも、アディっていっつも俺に合わせてくれるから、俺、アディの好きな物とか楽しい事って、音楽好きだってことくらいしか知らないや。いや、直接音楽が好きだって聞いた訳じゃないけど。でもいっつも綺麗な音楽が鳴ってるし。……それともあれも、俺の為なのかな……。情操教育とかいう奴?でも時々一緒に鼻歌歌ってるよな?
他には……他には何だろう。何がアディにとって楽しいことなんだろう。あぁ、ほんと、メッチャ気になる……!!
どこか上の空の湊斗を、友人達も教師も心配してくれていた。だがそのことにも気づかず、放課後になると誰よりも早く荷物をまとめ、誰よりも早くに湊斗は学校を飛び出した。
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