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仮面舞踏会ー1

 いつものようにアディに「うちに寄るだろう?」と言われた時、湊斗は「もちろん!」といつもよりも大きな声で答えた。  湊斗の家の隣の家の玄関を開ける。耳に飛び込んできたのは、いつもよりも大きくて迫力のあるドラマチックな音楽だ。キラキラと光を乱反射する鏡の間は、ざわざわといつもと違う気配を発していた。……人の気配だ。 「誰か来てるのか?」 「さぁ、どうだろうね」  楽しそうに笑ってから、アディはいつもの扉を開けた。  玄関から5つめの扉。知ってる。それはリビングのドアだ。  だがそこを開けると──── 「うわっ!」  目に飛び込んできたのは、色の洪水だった。 「な、何!?」  50畳ほどのリビングの筈のそこは、広い、広いホールになっていた。いつもの三倍の広さはあるだろうか。壁を取っ払っのか?それとも、どこか違う次元に繋げた……?  天井につきそうな程大きなケーキ。ホールの中に浮かぶたくさんの風船。壁沿いに管弦楽の楽団員が並んで音楽を演奏し、あちこちで魔法を使ったショーやジャグリングなどの芸が披露されている。そして、ホール中を埋め尽くすような、仮面を付けて礼装した、多くの人々。 「おぉ!アムドゥスキアス公爵のお戻りだ!」 「公爵、お招きありがとうございます!」 「その子が公爵の可愛いお子さんですかな?」  大きな角や背中の翼、獣の耳をつけている人や、トカゲのしっぽが生えている人もいる。  仮装……仮装なのか?これが?この大きな翼が?  頭の両脇に生える、大きくねじれた角。黒猫の仮面を着けたご婦人は、話すたびに仮面の下から猫の髭をピクピクと揺らしている。  アディを見れば、アディだっていつも通り、額の上には一本角。  ────悪魔  ────そうだ。ここは魔道界で、アディは魔界の公爵なのだ────  額に天眼の開いた狼男が、湊斗の首元に鼻面を寄せ、クンクンと匂いを嗅いだ。 「ああ、良い匂いがする……!公爵は、なんと素晴らしい子供をお持ちなのだ……!」  湊斗は目を見開き、ゾクッと背中を震わせた。  ああ、そうだ。読んだことがある。有名な話だったのに、何で忘れていたのだろう。  ────悪魔は、人間を食べるのだ────  音楽が、ふっと遠のいた気がした。  美しい仮面と色とりどりの衣装を身につけた招待客。ショーやジャグリングに興じる人々。天井に届きそうなほど大きなケーキと、ご馳走が並んだテーブル。  キラキラと。  キラキラと。  美しく、幻想的な世界。 「楽しんでいますか?」  美しい顔に、腕がついているはずの場所に鳥の羽を生やした女性が、にっこりと微笑んだ。 「……はい」  震えそうになる体を抑え、湊斗も笑顔を作った。  それから、そっと庭に続くガラスの扉を開けて、湊斗はホールを後にした。

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