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仮面舞踏会ー2

「ここにいたのか、湊斗。探したよ」  暫く芝生に座っていたら、心配顔のアディがホールからやってきて、湊斗の隣に腰を下ろした。 「賑やかなのは嫌いだった?たまには良いかと思ったんだ。手品やショーは嫌い?」  本当に、困った顔をしている。アディはいつでも、湊斗のことばかり考えてくれているのだ。 「前にね、本で読んだんだ。ファウストが『時間よ止まれ、汝は美しい』って言うと、ファウストの魂はメフィストフェレスに取られて、地獄に連れて行かれるんだよ」  ぽつりと呟くと、アディは少しだけ目を見開いた。それから、ふふっと美しい顔で笑ってみせる。 「その台詞を言ってしまって良いの?湊斗の話が本当なら、その台詞を言ったら地獄に連れて行かれるんだろう?」  アディの表情は笑っているけれど……目は笑っていなかった。湊斗も、まっすぐにアディを見つめ返す。  どれだけそうしていただろう。先に根を上げたのは、アディの方だった。  アディは俯くと、小さく頭を振った。 「連れて行かないよ。君が楽しく元気に暮らすことが、私の望みだ」  顔を上げたアディは、今にも泣き出しそうな顔をしていた。  ああ、そんな顔をさせたい訳ではなかったのに。  違うのだ。『悪魔が人間を食べる』。そのことに思い至ったときに感じた物。  それは、歓喜だった。  体中を歓喜が突き抜け、湊斗は背筋を震わせた。  ああ!ここで、アディに喰われて彼とひとつになる!それはきっと、一人きりであの家に生きていくより、どれだけ素敵なことだろう!!  湊斗はそっと空を見上げた。空には、三つの月が浮かんでいる。  魔道界の天体は、地球から見える宇宙と、同じ(ことわり)で動いているのだろうか。  湊斗は真ん中に見える、ひときわ大きな月に向かって手を伸ばした。 「ねぇ、アディ。月まで飛べる?」 「飛べないこともないが、お前の息が続かない」 「でも飛びたい」  子供のような我が儘を言うと、アディは立ち上がり、胸に手を当て、腰を折って芝居じみたお辞儀をした。 「湊斗のお望みのままに」  そのまま、湊斗はアディの右腕の上に座るように抱き上げられて、ふわりと空に舞い上がった。それは、思っていたのとは違う、静かな、静かな飛行だった。 「杖や箒がなくても空を飛べるんだね」 「魔力が弱い者は、自分の魔力を増幅する為の魔具が必要になる。そのポピュラーな物が杖だ。箒は……アレに乗って飛んでいる者を、私は見たことがないな。きっと、人間界の誰かが想像して流行らせたんだろう」 「魔道士は元々人間界の生まれなんだろ?魔道士が人間界に戻って、正しい魔法使いのマンガや映画でも作って、流行らせれば良いのにね」 「おや。ひょっとしたら湊斗が見たことのある話の中に、真実の話が紛れ込んでいるかもしれないよ?」  そう言うと、二人はそれならあの話が魔道士によって書かれた話に違いない、いや、あっちの方がそれっぽいだろう、などと、いくつも例を挙げて盛り上がった。  眼下の街はずいぶん小さく見える。ずいぶん高いところまで来たらしい。いつの間に、そんなに高くまで来たのだろうか。 「すごいね、とっても高い。あ、アディ、あっちには森があるよ。こんなに街の近所なのに、森が近いんだね!」 「そうだな」  湊斗の弾んだ声を聞き、アディはホッとしたように微笑んだ。

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