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公園ー1

 ピチュピチュと、鳥の鳴き声がする。風が気持ち良い日。  住宅街の中の小さな公園のベンチに、初老の男が一人座っていた。  ずいぶんと疲れた。この年でこんなに疲れることはまずないだろう。 「……いや、そうでもないのか。最後まで、皆他人任せだったしな」  三日前に、父親の葬儀を済ませた。ずいぶん長生きをしたと思う。九十八歳という大往生だった。晩年は老人病院で過ごしていたが、母親の写真をずっと枕元に飾っていたようだから、それなりに愛情のある夫婦だったのだろう。  葬儀は密葬で……と思ったが、どこで聞きつけたのか、かつての父の会社の人間から連絡があった。彼らは熱心に父に世話になったことを告げ、自分たちに葬儀委員をやらせてくれと言ってくれたのだ。  そうか。あれだけ仕事熱心だったのだから、それなりに慕ってくれる人もいたんだな。今更父の人柄を偲ぶことになるとは思わなかった。  全て彼らにお任せしてしまったけれど、もちろん喪主の自分がゆっくりしている訳にもいかない。知らない人に囲まれて、ずいぶん気疲れもしてしまった。  湊斗はゆっくりとベンチを立って伸びをした。体の節々が痛い。  そういえば、父の葬儀だというのに、自分の会社の人間も来てくれた。  自分の親を見送ったのだ。そろそろ自分の身の振りも考えないといけないのかもしれない。  そんな事を考えていると、足下にどんと何かが当たった。下を見ると、自分の太腿までしかない小さな子が、ビックリした顔で湊斗を見上げていた。 「ご、ごめんしゃい、じぃじ!いたかった?びっくりした?」  子供が慌てて涙目になっている。じぃじ。じぃじか。まぁ、そろそろ俺も、あんな小さな孫にいても良いような年だしな。  慌てて駆け寄ってきた母親が、「ダメじゃない!ちゃんと前を見ないと!」と子供を叱りつけている。  子供は湊斗の足にしがみついて、なんとか転ぶのを免れた。  おじいちゃんやおばあちゃんと一緒に暮らしているのだろうか。年寄りに対して乱暴にしてはいけないと、きっと日頃から躾けられているのだろう。   湊斗は母親に微笑んで会釈してから、子供の前にしゃがんで、頭を撫でてやった。 「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。ちゃんとごめんなさいが言えて、偉いね」  そう言うと、子供は目を見開いて、恥ずかしそうに母親のスカートの後ろに隠れてしまった。 「すいませんでした。お怪我はありませんでしたか?」 「まだ若いつもりなのに、そんなに心配されたら傷つくなぁ」 「あ、すいません!私、そんなつもりじゃ!!」 「冗談ですよ。ありがとう。今時感心なお子さんですね」  湊斗が笑うと、母親はちょっとバツが悪そうに、それでも嬉しそうに微笑んで、「まだまだヤンチャで」と言い訳をした。それから何度も頭を下げながら、遊具のあるコーナーに子供と一緒に歩いて行く。  子供は何度か振り返って湊斗の姿を確認した。そのたびに手を振ってやると、嬉しそうに小さな手を大きく振り返してくれた。 「子供って良いな。自分の子供でなくても、見てるだけで笑顔になる」 「そうだな」  誰に言った訳でもないのに、その台詞には答えが返ってきた。声の主は、見ないでも分かる。 「ああ、だからあんたは俺を育ててくれたのか」  振り返れば、相変わらずの美貌を晒して、アディが立っていた。

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