22 / 26
公園ー1
ピチュピチュと、鳥の鳴き声がする。風が気持ち良い日。
住宅街の中の小さな公園のベンチに、初老の男が一人座っていた。
ずいぶんと疲れた。この年でこんなに疲れることはまずないだろう。
「……いや、そうでもないのか。最後まで、皆他人任せだったしな」
三日前に、父親の葬儀を済ませた。ずいぶん長生きをしたと思う。九十八歳という大往生だった。晩年は老人病院で過ごしていたが、母親の写真をずっと枕元に飾っていたようだから、それなりに愛情のある夫婦だったのだろう。
葬儀は密葬で……と思ったが、どこで聞きつけたのか、かつての父の会社の人間から連絡があった。彼らは熱心に父に世話になったことを告げ、自分たちに葬儀委員をやらせてくれと言ってくれたのだ。
そうか。あれだけ仕事熱心だったのだから、それなりに慕ってくれる人もいたんだな。今更父の人柄を偲ぶことになるとは思わなかった。
全て彼らにお任せしてしまったけれど、もちろん喪主の自分がゆっくりしている訳にもいかない。知らない人に囲まれて、ずいぶん気疲れもしてしまった。
湊斗はゆっくりとベンチを立って伸びをした。体の節々が痛い。
そういえば、父の葬儀だというのに、自分の会社の人間も来てくれた。
自分の親を見送ったのだ。そろそろ自分の身の振りも考えないといけないのかもしれない。
そんな事を考えていると、足下にどんと何かが当たった。下を見ると、自分の太腿までしかない小さな子が、ビックリした顔で湊斗を見上げていた。
「ご、ごめんしゃい、じぃじ!いたかった?びっくりした?」
子供が慌てて涙目になっている。じぃじ。じぃじか。まぁ、そろそろ俺も、あんな小さな孫にいても良いような年だしな。
慌てて駆け寄ってきた母親が、「ダメじゃない!ちゃんと前を見ないと!」と子供を叱りつけている。
子供は湊斗の足にしがみついて、なんとか転ぶのを免れた。
おじいちゃんやおばあちゃんと一緒に暮らしているのだろうか。年寄りに対して乱暴にしてはいけないと、きっと日頃から躾けられているのだろう。
湊斗は母親に微笑んで会釈してから、子供の前にしゃがんで、頭を撫でてやった。
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。ちゃんとごめんなさいが言えて、偉いね」
そう言うと、子供は目を見開いて、恥ずかしそうに母親のスカートの後ろに隠れてしまった。
「すいませんでした。お怪我はありませんでしたか?」
「まだ若いつもりなのに、そんなに心配されたら傷つくなぁ」
「あ、すいません!私、そんなつもりじゃ!!」
「冗談ですよ。ありがとう。今時感心なお子さんですね」
湊斗が笑うと、母親はちょっとバツが悪そうに、それでも嬉しそうに微笑んで、「まだまだヤンチャで」と言い訳をした。それから何度も頭を下げながら、遊具のあるコーナーに子供と一緒に歩いて行く。
子供は何度か振り返って湊斗の姿を確認した。そのたびに手を振ってやると、嬉しそうに小さな手を大きく振り返してくれた。
「子供って良いな。自分の子供でなくても、見てるだけで笑顔になる」
「そうだな」
誰に言った訳でもないのに、その台詞には答えが返ってきた。声の主は、見ないでも分かる。
「ああ、だからあんたは俺を育ててくれたのか」
振り返れば、相変わらずの美貌を晒して、アディが立っていた。
ともだちにシェアしよう!