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公園ー2
「魂を食べる為かもしれないよ?」
「こんなおじいちゃんを食べても美味しくないだろう?」
「どうだろう?それより、おじいちゃんって湊斗のこと?」
「ああ、さっきの子に、じぃじって言われたよ」
アディは驚いたように目を見開いて、おどけた顔で笑った。
二人は並んで湊斗の部屋に戻った。若い頃から住み続けているワンルームマンション。
今、隣の部屋には二十代後半の若い女性が暮らしている。夜の仕事をしているらしく、時々ドアに手を掛けようとすると、出勤しようとする彼女とかち合うことがあった。彼女は湊斗が自分の部屋の様子を伺っているとでも思っているらしく、こないだは『たまには遊びに来て下さいよ~。お店でなら、ゆっくりお話できますから~」と、キャバクラの名刺を渡されてしまった。
「今日は大丈夫かな?」
「大丈夫そうだ」
中の気配を伺ってから、アディが彼女のドアに手を掛ける。
「来るだろう?」
「もちろん」
ドアを開ける。鏡の間。アディはいつも通り、銀藍色の髪の毛に一本角の、悪魔の姿に戻っていた。
今日は夕飯には少し早いので、二人で庭を散歩した。先ほどの公園などよりよほど散歩のしがいのある見事な庭園だが、人間界の小さな公園も乙な物だ。
「なんだかね、父さんと母さんを送って、心の中がものすごく自由になった気持ちがするんだよ」
「心の中が、自由に?」
「うん。よく分からないんだけど、もう、自分を縛る物はないんだなって。だから、いつでも俺を食べてくれて構わないんだよ?」
「もちろん食べるさ。今夜も隅から隅まで味わわせてもらおう」
案外真面目にそんなことを言うアディを、そっと睨んでやった。
「そういう意味じゃないよ。こんなおじいちゃんを舐め回して楽しいのか?」
「子供から見たらおじいちゃんかもしれないけど、あの母親はまんざらでもない顔をしていたぞ。私以外の人間に良い顔をするなと、お前はいつになったら理解できるんだ?」
「信じられない。あのお母さんが聞いたら絶対気分を悪くするぞ」
「何故?お前みたいなのを、最近ではイケオジって呼ぶんだろう?」
アディは本気のようだ。まったく、この年になっても親バカすぎる。
暫く二人は睨みあっていたが、ふっとどちらともなく笑いがこみ上げてきた。
湊斗は、白い物の多くなった頭を、そっとアディの肩に凭れかけた。
「とんでもない親バカだけど……でも、アディがいてくれて良かった」
「失礼な。親バカなんかんじゃないぞ。私は、正真正銘湊斗を愛している。自分の子供に欲情する親はいないだろう?」
「……そ、そうか……」
返事に困っていると、アディはそっと湊斗の皺の刻まれた手を持ち上げた。
「美しい手だ。この皺の一つ一つが私と共に刻まれたと思うと、堪らなく愛おしい」
そうしてアディは、湊斗の手の甲に、恭しく口づけた。
「君の心が自由になったというのなら、全てのしがらみから解き放たれたというのなら、君の全ては今度こそ私だけのものだ」
アディは、湊斗の頬にキスをして……それから深く唇を交えた。
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