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第32話 目覚めと絶望②
目の前の出来事を受け入れられずにいる雪兎に、男はベッドから降りながら平然と問う。
「お前、どこまで覚えてる?」
男の問いかけに答えようと思うのに喉の奥が震えて引き攣った声しか出ない。
それもそのはず、男がただ者ではないことが一目でわかるから。
カタカタと体が震えるのは恐怖から。
ドラマとかでしか見たことない、男の背中に彫られている一匹の龍と目が合って逸らすことができない。
背筋が凍るような、冷えた汗まで噴き出す。
怖くて身動き一つとれず、口さえ上手く開けない。
男が部屋の中を歩くだけで、ビクビクと警戒して目で追ってしまう。
それに気付いているのか、男は「まあ、いいか」と零すと再びこちらへと近付いてきた。
それだけでもう、あまりの恐怖に生きた心地なんてしない。
「発情期 になって番にした」
目の前で煙草に火をつけながら放った男の言葉。
すぐには理解できなかった。
(発情期……)
急に身体がおかしくなったのはそのせい?
そして、男の最後の言葉。
(……つ、がい……?)
まだ中学生の雪兎でもわかる。オメガである雪兎なら尚更知っていて当然のもの。
恐る恐る、自分の手のひらを項に当てて。
そこにあるのは触れてもわかる程のくっきりとした歯型の痕跡。
目の前が真っ暗になるような。
そこにあるのは絶望の二文字。
中学生で首輪も付けていなかった雪兎は、この時始めて後悔した。
まだ自分は大丈夫だと油断していたのだ。
発情期になったことない自分なら大丈夫だと、そう思っていたのに。
自分は発情期になって、番にされた。
その事実はあまりにも重く、頭の中で整理できずにいた。
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