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第33話 目覚めと絶望③
「そ、んな……や…………う、そっ……やだっ!」
噛まれた項を擦っても、それは決して消えてはくれない。
一生残る噛み跡。
(どうしよう……)
不安に襲われた雪兎の手は自然と項を引っ掻いていて、そこから僅かに血が滲む。
痛みなんて、微塵も感じない。
「やだ、っ……うぐ、や……ぁ、っ……やだぁ、っ」
泣きながら項を掻き毟る雪兎の手を、男が掴んで止める。
「んなことして、消えるわけねえだろ」
「うっ、な……っで……ひぐっ、……ど……して、……っうぅ」
泣きながら訴えても、自衛をしなかった自分が一番悪い。
なんで、首輪をしなかったんだろう。
そもそも、夜に出歩いてなかったら。
そんな後悔ばかりが押し寄せる。
煙たいタバコの匂いが辺りを漂う。
(……気持ち悪い)
吐き気をこらえながら、自分の服を探す。
ただ、一刻も早く自分の家に帰りたかった。
脱ぎ捨てられていた服を見つけ手を伸ばそうとして。
「いらねえだろ」
掴もうとした服は、伸びてきた男の手の中。
「っ……かえ、して」
今すぐ着替えて、家に帰りたい。
そんな雪兎の心を男はいとも容易くねじ伏せる。
「かえさねえよ」
鋭く光る黄金の瞳に射抜かれ動きが一瞬にして止まる。
「やっと見つけた俺の運命をそう易々と逃がすかよ」
(うんめい……?)
「お前は今日から俺のイロ、組の連中には話は通したから――」
(いろ?)
(くみ……?)
(何を言ってるの?)
まるで流れるように淡々と喋る男。
何を言ってるか、わからない。
「なあ、聞いてる? ユキ」
――ドックン
(なんで、その呼び方は……)
今まで、ハルにしか呼ばれたことない。
いや、それ以前になんで僕の名前を知ってるの?
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