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第35話 京極財閥

 耳元に唇を寄せ低く囁く男の声。 「京極霙(きょうごくみぞれ)。それが俺の名前」  ゾクリ。その名を聞いた瞬間、背筋が一瞬で凍り付く。  だって、その名前を知らない人なんて、日本中どこを探したってきっといない。  この国の頂点。  世界でも有数な財閥に名を馳せる。  日本の三大財閥の一つである『京極財閥』。  社会科の授業でも習うその名を聞いて驚かない方がどうかしている。  日本の金融のみならず、家具や雑貨、日用品に文具など京極独特の老舗ブランドは、人々から広く愛され親しまれている。  東京に本社を置く京極コーポレーションは日本国内だけでも約1,200もの支社が存在しているとされ日本を陰から支えていると言っても過言ではない。  そんな誇れる一面を持つ京極財閥。  その若き当主が京極霙であり、今、目の前にいる男だ。  世界に名を馳せるその名を聞いて怯えるのには、他にも理由はあるが――。 「これだけは言っておくが、逃げても無駄。組の連中が24時間体制で見張りもしてるから。バカなことは考えるなよ」 (なに、それ……)  あまりの出来事に唖然とすることしかできない。  そんな、絶望に染まる雪兎の耳にコンコンと控えめなノックの音が響いた。

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