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第48話 残酷なキス
京極さんの膝の上に座らせられて、大人しくそれに従う。
反抗したら、桐原さんがどうなってしまうかわからない。
それが一番怖かった。
京極さんの圧が桐原さんの動きを縫い留め、僕をも支配する。
ごくり、唾を飲む。
たった少しの時間が永遠にも長く感じるほど、男はゆったりとした動作で僕の頬をするりと撫でた。
まるで「よくやった」とでも言うように、優しく撫でる。
「っ……」
たったそれだけのことが、不快でたまらない。
撫でられた頬が冷たく熱を失うように、ゾクリと悪寒が走る。
「ユキ」
男に呼ばれるその名は、ハルだけが特別に呼んでいた愛称で。
それすらも、今の僕には不快で耳を塞ぎたくなる。
けれど、耳を塞ぎたくなる僕のことなどお構いなしに男はゆっくりと口元を耳に寄せ恐ろしいことを囁く。
「――っ、! やだ……でき、な」
目の前の男が、人の皮を被った悪魔だと思った。
だって……。
僕からキスしろ、なんて。
好きでもないのに、そんなこと……できる訳がない。
しかも、桐原さんだっているのに。
「あいつがどうなってもいいのか?」
そう言った京極さんの目は、冷ややかに桐原さんを見ている。
「できるだろ?」
そう言ってまた僕へと視線を移す。
「…………………」
いつまで、そうしていたのか。
沈黙した状態が長く続いて。
やがて男がしびれを切らしたように言う。
「いつまでお預けくらわせんだ?」
鋭い瞳には熱が籠っている。
(早く……はやく、しないと)
ドクドクと心臓が煩いぐらいに響く。
ファーストキスだって、この男に奪われたじゃないか……。
性行為だって、された。
たった一回のキスなんて減るもんじゃない。
それで桐原さんを見逃してくれるんだから。
そう、思うのに……。
(自分からキスなんて、したくない……!)
大嫌いなこの男に自分からなんて……。
なんて、なんてこの人は残酷なことをさせるんだ。
「ユーキ」
大好きな人にだけ呼ばれていた名前を軽々しく呼んで。
僕が一番嫌なことを知っていて平気でさせてくる。
この男が、僕は心底嫌いだ。
きっと天地がひっくり返っても、僕はこの男を好きになることなんてないし、決して屈しない。
決意を込めた瞳で、男を見据えて。
「んっ、」
僕は大嫌いな男のその唇に、キスをした。
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