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第50話 電話の主は…(side.桐原)

 時は少し遡り――。  それは常勤していた病院での仕事終わりのことだった。  家から職場までは徒歩数分の距離にある、短い帰路についていた時。  仕事用ではなく、プライベート用のスマホが鳴った。  着信元には古くからの幼馴染の名前が表示されている。  滅多に向こうから電話が掛かってくることなど少なく、珍しいこともあるもんだと直ぐに電話に出ると「今すぐ来い」とだけ言われプツリと電話が切れた。 「相変わらずだなぁ」  一方的な電話に若干イラっとするが、それでも素直にアイツの家に足が向かうのは、古くからの腐れ縁だからだろうか。    *  *  *     「邪魔するよー」    厳重な見張りと近寄りがたい雰囲気の黒服スーツ姿の男たちに時折、挨拶されながら辿り着いたのは高層マンションの最上階にある部屋。   「なんか今日、やけに人多くない?」  部屋に入り、ソファに座って優雅に煙草を吸っている相手……先程の電話の主でもある人物、京極霙に問いかける。  いつもは人払いしているはずの霙の部屋には数人の男たちが、配置されている。  それはまるで何かを守る為か、はたまた獲物を逃がさない為だろうか。  ピリつく空気にゴクリと息を飲む。 「……それで、急に連絡してきて何かあったの?」  念の為持ってきていた医療用バッグを置き向かいのソファに座る。  真正面から数ヶ月ぶりに見た霙の頬、そこにある小さな擦り傷を見て、絶句した。 「ちょっと待って! あの天下の霙様が顔に傷作るとかどうしたの!? 明日槍でも降るんじゃない?!」  冗談めかして放った言葉だったけれど、内心は物凄く驚いていた。 「チッ、うるせぇな」  霙のそんな舌打ちすら気にならない程の驚き。    だって、喧嘩が強い誰もが恐れる男なのだ。  今まで殴り合いで出来た傷はあれど、それは相手を殴って出来た拳のかすり傷程度のものだ、顔に傷なんてそんなの一度だって出来たことがないのに……。 「このぐらい大した傷じゃねぇ」  自分のモノに傷一つ付けられだけで相手を半殺しするようなこの男が……顔に傷ができたのに平然としている姿に絶句する。  一体、どこの誰がそんな命知らずのことをしたのか気になりながらも平静を装い、吸い終わったタバコを灰皿に捨てる霙を見つめる。 「お前にしか頼めない」  霙のその一言に度肝を抜かされる。  今まで俺を見下してばかりいた、あの天下のオレ様霙様が俺に頼み事をしている。  仕事疲れで変な夢でも見ているんじゃないかとも思ったが、紛れもない現実だというのが目の前の霙の真剣な顔を見て理解する。 「指詰め、とかじゃないよね?」  ゴクリと固唾を飲みながら問うてみる。  長年医者として勤務してきたが、ヤクザの世界にはヤクザの筋がある。  裏切りや不始末を犯したものが謝罪と反省の意を込めて指を詰めるらしいが……。  首を横に振った霙を見て、俺の心配は杞憂だったと安心する。 「……診て欲しいやつがいる」  決して茶化している訳ではない、真剣な声と眼差し。  横に置いてある医療用バッグを持って「案内して」と立ち上がれば、霙は「来い」と厳重な見張りがいる部屋へと俺を通した。

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