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第53話 無力な自分①(side.桐原)

 傍に控えるように立っているリトくんが気を利かせてコーヒーを淹れてくれた。  焙煎したてのコーヒーは、香りは勿論のこと飲んだ時の風味も抜群に美味しい。 「え、リトくんの本職焙煎士? こんなに美味いの初めて飲んだかも」 「お褒めに預かり光栄です。焙煎は全て独学で習いました。桐原様のお口に合ったのなら何よりです」 「冗談抜きで店出せるレベルだよ!」  そんな他愛ないやり取りをしながら、診療代として渡された額は桁が違うんじゃないかと思うほどの金額。  こんな大金を受け取れないと困る俺に「受け取って貰えないと逆に私たちが京極様にお叱りを受けます 」と言われてしまえば、どうしても受け取らざるを得なかった。    そうして数十分が経ち、そろそろ点滴もきれる頃だろうとあの少年が寝ていた部屋へと再度向かえば。  部屋に入った途端感じる物々しい雰囲気。  既に目を覚ましていた少年、白濱くんが過呼吸になっているのを捉える。  ベータの俺でさえ肌がピリつく程の威圧感を漂わせる霙を怒鳴りつけ白濱くんに近付く。  霙が放つアルファの圧に気圧された白濱くんは息もまともに出来ていなくて、すぐに呼びかけ落ち着かせる。  アルファのオーラに充てられたのは初めてだったのだろう、わんわんと止めどなく泣き続ける白濱くんに寄り添いながらこの現況となった霙に詰めよろうとしたのに。 「はぁ……」  謝罪の言葉はおろか、大きな溜め息を吐き冷たくあしらうように俺を見据える。  そんな霙の態度にイライラが積もっていく。 「あのさ、溜め息吐きたいのはこっちだよ! 何してんの!? いたいけなオメガの子相手にそんな殺気出したらダメだって俺言ってるよね!?」 「うぜぇ」  さも自分は悪くないというような、いつもの横柄な態度。 「はぁ? あのなぁ、そっちが勝手に呼び出しといてうぜえってお前何様!?」 「ギャーギャーうるせえな、とっととそれ外してやれ」  憤慨しそうな気持ちをどうにか落ち着かせ、ひとまず点滴を外した。   「体調はどう? もう熱は下がったかな」 「はい。あ、の……すみません、僕――」  申し訳なさそうな顔をして頭を下げようとする白濱くんの背中を優しく撫で止める。   「いいのいいの! 全部コイツのせいだから。さあ、もう夜も遅い。君も早く家に帰って――」  これ以上この子を霙の傍に居させるのが心配で帰ることを促そうとすれば。 「ダメだ。そいつは俺のイロだ。帰るとこなんざねえよ」  霙のその一言が俺の動きを止めた。   「はあ? イロってお前、冗談も程々に……」  まさか……と思った。  こんな部屋に閉じ込めて囲う理由……。 「用が済んだらさっさと帰れ、報酬は払っただろ」  そういうことか、と一人納得する。  先程リトくんたちに渡された診療代には、口止め料もきっと入っているのだろう。  ぎゅっと握った拳は怒りで震えている。 「お前、本当にこの子を……? どうみてもまだ学生じゃないか!」  見るからに幼いこの少年をイロなんて……。  どうかしてるとしか思えない。  それなのに霙は平然と答える。 「それがどうした」 (どうした、だと……?) 「まだ子供の……未成年に手を出すなんてどうかしてるっ! 霙、これは立派な犯罪だ」  すぐにスマホを取り出し……しかし、すぐにその手は止まる。 「ハッ、警察にでも通報するって? 馬鹿だなぁ、桐原。この国に、俺に歯向かえる奴なんざいねえよ」 (どこに……誰に、助けを求めればいいんだ……?)  警察が取り合ってくれる訳がない。  今までもそうだった。  霙がどんな犯罪に手を染めたって、警察は一度だって霙を犯罪者にはしなかった。 『京極には楯突くな』  それが国家警察の暗黙のルール。   「物わかりのいいユキならわかるよな? こっちへ来い」  何も出来ない俺を横目に、霙は椅子に座ったまま白濱くんへと視線を移した。

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